逮捕された小梛元議長を高評価してきた稲毛新聞:地方政界の断面

千葉市には『稲毛新聞』という月刊の地域新聞がある。年間郵送購読料は3000円だが、購読申し込みをしなくても、千葉市の中心部の15万戸には無料で配布されている。広告収入で成り立っているのだと思われる。
http://www.chiba-shinbun.co.jp/info.html#002


その『稲毛新聞』が、先日逮捕された小梛輝信元千葉市市議会議長のかつての「市職員恫喝疑惑」を報じた朝日新聞を、2006年7月号で批判した記事が、こちら。


市議の怒りを大々的に暴露 声を荒げたことを問題視した朝日新聞の"見識"
http://www.chiba-shinbun.co.jp/0607_01.html#001


引用してみよう。

 この"カミナリ市議"は、日ごろの活動や熱血漢ぶりには定評がある。「声を荒げて変更を迫った」ことをだけを誇張して報道した朝日新聞の狙いは何だったのか?いくつかの疑問点をあげてみたい。
  1.市議が市職員に声を荒げた一部分を取り上げ大々的に報道しただけである。 2.その言動に至る経過や事後の説明がされていない。 3.市議の言動や圧力により、千葉市が政策を変更していなかったこと。 4.録音されたテープの時期が特定されていない。 5.市民の声を代弁し、市の職員に"声を荒げた"ことを悪く報道するのは市民の利益に反すること。 6.多くの市民に誤解を与え、議員の名誉を傷つけたことなどだ。


市議が、市職員に声を荒げて不当な圧力をかけていることを、広く市民に知らしめるのは、民主主義社会において、メディアが果たすべき重要な役割の一つだ。ところが、稲毛新聞の論理では、「市の職員に"声を荒げた"ことを悪く報道するのは市民の利益に反すること」なのだそうだ。へ?



次。2009年8月、つまり逮捕直前の小梛輝信元議長をコラムで取り上げた稲毛新聞の記事がこちら。


今月の人 議会に毎日出勤して頑張っています
http://www.chiba-shinbun.co.jp/pdfs/0908_0108.pdf


このコラムには、注目すべきことが書かれている。小梛輝信元議長の兄が、小梛泰三郎氏であり、同氏は株式会社小梛組の経営者だ、ということである。じつは小梛組という会社は、かつて、公正取引委員会から処分を受けている。それがこちら。


株式会社小梛組に対する課徴金の納付を命ずる審決について
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/04.may/04052103.html



つまり小梛一族とは、兄が社長を務める建設会社が独禁法違反の罪を犯し、弟が市議会議長ながら恐喝容疑で逮捕されたという一家なのである。

こうした具体的なディティールを知れば、熊谷市長がかつて千葉市議会の議員時代に、自らのブログで語っていた次の言葉が、説得力をもってくるように思われる。すなわち「小梛市議は前から評判が悪く、何かと黒い噂が囁かれていた議員です。にも関わらずこれまで3回も当選しており、地方政治の腐敗の根の深さを象徴する方でもありました」*1とか、「千葉市の県道電線共同溝工事についてこの小梛市議が関係する土木業者2社が交代で受注を独占している異常な状況が明らかになっており、国政では今時考えられない分かりやすい汚職が展開されている様がよく分かります」*2といった言葉である。


ところが、こうした「何かと黒い噂が囁かれていた」議員を高く評価し、褒め称えてきたのが、稲毛新聞である。稲毛新聞は、小梛元議員のことを「日ごろの活動や熱血漢ぶりには定評がある」*3だとか、「熱血議員として知られ、歯に衣を着せず、ズバスバいう性格で、役人に恐れられ市民には頼もしい議員として知られている先生だ」*4だとか、「体を張って市民のために主張する議員を頼もしく思う人も多いはずだ」*5などと評してきた。一人の議員への評価としては、相当な賞賛ぶりである。そしてこの新聞は千葉市の15万戸に、無料で配布されている。無料だから、新聞を取らない人でさえ、この新聞を目にする機会がある。

月刊とはいえ、毎月15万戸にポスティングするとなると、相当な発行・流通経費がかかることは想像に難くない。そしてこの新聞が、広告収入で成り立っていると思われることは、既に述べた。問題は、ではいったいどういう企業や個人が、この稲毛新聞に広告を出稿しているのかである。そこで、稲毛新聞の最新号(2009年9月号)の第2面を、よく見て欲しい。このページの下のほうに、企業広告がある。そこには、次のような広告を確認できる。

◆総合建設業◆株式会社小梛組
千葉市稲毛区小仲台6-20-2

この株式会社小梛組というのは、上述した、公正取引委員会から課徴金の納付を命じられた「小梛組」そのものなのである(上記の公正取引委員会のURLに記された小梛組の所在地と一緒)。


つまりこういうことである。建設会社の社長を務める兄の会社は、公正取引法に違反して不当な利益を得る。弟は、市の建設工事の発注方式の変更をめぐって、市職員に不当な圧力をかけたり、恐喝事件を起こしたりする。地元メディアは、本来であれば、こうした不当行為を監視し、社会に知らしめていくべきなのに、その兄の会社からは広告料を貰いつつ、弟を賞賛する記事を連発する。いやはや…。

実は稲毛新聞には、右派的・国粋的な「論説」が掲載されているので、ネトウヨの間では「ネ申」と崇め奉られているようなのだが、ネトウヨの皆さんは、はたして稲毛新聞がこういうスポンサーによって支えられていることを、ご存知なんでしょうか?ご存知じゃないんだろうなぁ…。


こうしたなか、小梛元議長の逮捕をめぐって、この稲毛新聞にまで家宅捜査が入ったのは、ちょっとした驚きであった。どういうわけか、この件については大手新聞がぜんぜん報じないので、テレビニュースを張り付けている2chから引用しよう。

http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1252166972/

 千葉市議会の議長が逮捕された事件で、議長がトラブルになっていた建設会社に対して、 「悪い評判を新聞に書かせるぞ」と脅していたことが関係者への取材で新たに分かりました。
 千葉市議会議長の小梛輝信容疑者は今年4月頃、千葉市内のビル建設をめぐって建設会社に言いがかりをつけ、仲介の不動産会社幹部に暴力団の名刺を見せるなどして金銭を要求した恐喝未遂の疑いで逮捕されました。
 小梛容疑者が建設会社に対して、「近隣対策がなっていないことを新聞に書かせるぞ」などと脅していたことが関係者への取材で新たに分かりました。
 一方、警察は4日、議長室などの家宅捜索を行いましたが、地元紙の「稲毛新聞社」も家宅捜索していたことが捜査関係者への取材で新たに分かりました
 稲毛新聞の5月号には「建設会社が強引に着工」という見出しの記事が掲載されていて、 警察は、小梛容疑者と稲毛新聞社の関係を調べています

2009年5月号の第3面、「大成建設が強引に着工」と題した記事がそれである。この記事には、小梛元議員の言い分がバッチリ紹介されているのだが、この記事だけを読むと、なんだかいかにもビル建設をめぐって建設会社(大成建設)がケシカランことをやっているかのように思ってしまいそうになる。だが、報道によると、実際には、地元に建設をめぐるトラブルはなかった、という*6。じゃあ、稲毛新聞のこの記事って、いったい何だったんでしょう?そもそも稲毛新聞ってどういう新聞だったのでしょう?ネトウヨの皆さんは、それでもまだ稲毛新聞を「ネ申」と崇め奉り続けるのでしょうか?


なお警察が今回、同社を家宅捜索したのは、じつは2009年の9月号の稲毛新聞が一面で、千葉中央警察署の交通取締を批判した記事を載せたことの見せしめだったのではないか、という説もあるようだ。いずれにしても、稲毛新聞は、今回の一件について、特集を組むのではないかと思われるので、いったいどのような見解を載せてくるのか(「本紙、警察の不当な家宅捜査を受ける!!」といった見出しが想像できますが…)、楽しみに待つことに致しましょう。



謝辞:以下のブログエントリーが参考になりました。
http://xxxchibaxxx.dtiblog.com/blog-entry-62.html
http://worstblog.seesaa.net/article/127598010.html




おまけ:
千葉市長の市議時代に議長が圧力 「暴力団との関係調べ質問を」
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/119749

 千葉市内のビル建設をめぐる恐喝未遂容疑で逮捕された千葉市議会議長小梛輝信容疑者(66)が昨年3月ごろ、入札情報の漏えい疑惑について市議会で追及した当時市議の熊谷俊人市長(31)に面会し、「暴力団との関係も調べた上で質問しないといけない」などと圧力をかけるような発言をしていたことが4日、分かった。
 熊谷市長が4日、報道陣に明らかにした。熊谷市長は「暴力団とのつながりは前からうわさされていた。気にせず追及しなければならないものは追及しようと思った」と語った。


追記(2009/09/25)
千葉市議長、再逮捕へ 大成建設を脅した疑い
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20090925STXKE070224092009.html