フランス、アメリカ、恐るべし:原発と地震対応に見る国際政治

原発地震に対する、諸外国の日本への対応を見ていると、フランスとアメリカの計算高さに、づくづく驚かされる。まさに、国際政治が、いま展開されているのである。それは、こういうことだ。


自動車は、毎年5千人以上の死者を出す。年によっては1万人以上である。事故による障害者や孤児を加えると、犠牲者はもっと多い。さらに、騒音、排ガスなどを出すので、健康被害も大きい。暴走族という犯罪者も生まれる。あと事故を起こして逮捕されて刑務所に入る者もいる。では原発はどうか。少なくとも現在まで死者ゼロ。騒音、排ガスはない。放射能による健康被害もない。犯罪者も生まれない。


自動車も原発も、どちらも社会に貢献しているが、片方は社会に害を振りまいており、片方は害を振りまいていない。今回の原発周辺からの避難者は原発の害を被ったと言えるが、それとて今回が初めてだ。


だから、あのチェルノブイリの事故でさえ、たった20年程度たった後には「原発ルネサンス」とかで、原発が再評価されるようになったこと、また今回の事故はチェルノブイリ未満であることからすると、世界的には、さほど遠くないうちに、原発がまた見直されるはずだ。ただ、日本での原発の新設はさすがに難しいだろうが。


さて、こうした中で注目すべきは、原発大国フランスから、政官財そろって人材が大挙して来日したことである。政官からは大統領サルコジエコロジー大臣コシウスコ=モリゼ*1、仏原子力庁(CEA)長官のビゴなど。民間からは、アレバのロベルジョンCEOなど。だがちょっと聞きたい、なんでそんなに大挙してやって来るの?


日本人のほどんどは東電が嫌いになったので、東電嫌いの裏返しで、このフランスからの人材の来日を大歓迎中である。のみならず、日本人はかねてから「おふらんす」が大好きなこともあってか、多くが、フランスからの人材の来日を、「日本を助けに来てくれた」と思っている。そんなわけ、ありません!


大挙してやってきた彼らフランス人の狙いは何か。1:原発ルネサンスの流れの死守。 2:事故対応に貢献することで、自国の原発の技術・能力・評判を高めること。これは、途上国での原発の受注に、ものすごく役に立つ。今回の事故は、今後フランスが途上国で原発を受注する際のライバルである日本メーカーを駆逐するには、またとない絶好のチャンス。つまり国際貢献のフリして商売力を高める、これが本音である。 3:「緊急時」、「非常事態」という名目で、どさくさに紛れて、じつは東電の技術やノウハウを盗みに来ている。日本の原発技術やノウハウがまんまと持っていかれそうになっている。世紀の大技術流出である。


「そんなバカな、そんなのウソだ」、「東電にそんな盗むべき技術やノウハウがあるはずがない」と思っている人が、多数だろう。ではそういう方にお聞きしたい。フランスに津波はありますか?ない。だからフランスには、たしかに放射能汚染水の除去ノウハウはあるかもしないが、津波対応の技術やノウハウはない。だが今後、フランスが途上国で原発を受注するには、この津波対応の技術やノウハウを蓄積しておくことが、どうしても必要になってくる。今回のフランスからの政官財そろっての大挙しての来日は、そのためのノウハウを盗みに来たと見るべきである。もちろんアレバのCEOやサルコジ大統領が直接盗むのではない。 CEOや大統領は、協力と称して、技術者が盗むための先鞭を付けにきたのである。サルコジは、トップセールスマンなのだと考えれば、なぜアレバのCEOが一緒にやってきたのかも、わかるだろう。


つまりフランスが、今回の地震の直後から、諸外国とは比べものにならないほど早くから、気合を入れて「東京から避難せよ、避難せよ」と騒ぎ、あろうことかフランス軍用機まで派遣して、在日フランス人のみならず、日本人配偶者との間に生まれたフランス系日本人までをも、フランス軍用機でパリに避難させるなどして、徹底的に日本人の危機意識を呷ったのは・・・そう、こうして官民して大挙して来日し、日本に協力するフリして、ちゃかり商売する、そのための「仕掛け」だったのだと見るべきだろう。普通これを「マッチポンプ」という。しかし普通の「マッチポンプ」と違うのは、消火活動のフリをして技術を持っていく「火事場泥棒」でもある、という点だ。恐るべし、フランス。


要するに、フランスは今回の原発事故の「勝者」である。ちなみに、日米同盟を名目に、平時なのに日本国内で日米両軍の一体運用を成功させて、今後日本からの軍事協力と両軍の一体運用を拡大させる目処をつけるのに成功したアメリカも、今回の地震の「勝者」である。


ああ、フランスが助けに来てくれたと喜んでいる日本人って、なんてナイーブなのだろう。つくづく日本人は、「おめでたいなぁ」と思う。だいたい、ついこの前まで、フランス政府は、在日自国民に対して「日本から避難せよ」と言っていたのに、あろうことかその国の大統領が、その直後に、その日本に、無償の善意だけでノコノコとやって来る・・・わけがない、ということに、どうして気付かないのだろうか(苦笑)*2。おそらく計算高いフランス人は、ナイーブな日本人を爆笑しているのではないか。ああ、政治経済学を名乗りながらフランスの意図をちっとも読めぬ経済学者は、なんと政治センスがないのだろう。「原発反対!」しか言うことないの?情けない。こういう人は、IPE(国際政治経済学)とか名乗らんといてください。



ついでに言うと、このあと、東電をめぐって出てくるのは、ロシアかもしれない。
まず東電は今後、火力発電に傾斜せざるを得ない。特にLNGが有望だが、これをどこから調達するかというと、ロシアである。そしてロシアには、天然ガス世界最大手のガスプロムがある。同社にとって、東電は有望な販売先となる。
他方で、東電は賠償金の負担に耐え切れず、資本注入による一時国有化がありえる。そして、その後、再上場や公募増資がなされることもありうる。そのとき、ガスプロムは、中津孝司氏がかつて予測したように、LNGの確実な販路を求めて、下流である東電に対して、資本参加してくる可能性がある。というか、東電の再上場や公募増資の機会があれば、資本参加の絶好のチャンスとなるだろう。
実はわたしは、東電というのは「外国人保有制限銘柄」だと思い込んでいたのだが、そうではなかった*3。つまり、東電が外資の手に落ちることは、理論上は、あり得るのである。ちなみに、ガスプロムはロシアの政府系企業なので、そのとき、首都圏民の電力は、ロシア政府の意向に左右されかねなくなる訳である。えー、それっていいんだっけ。いや、ちょっとマズイんじゃないでしょうか・・・?というわけで、中津孝司『ガスプロムが東電を買収する日』ビジネス社、2007年*4、を読んでおくべきかもしれない。


 

*1:コシウスコモリゼ、という表記もあるが、スペルは、Kosciusko-Morizetである。

*2:つくづく吃驚させられるのは、「大統領の訪日に関しては日仏の一部で、『来春の仏大統領選の選挙運動』『仏原子炉売り込みのため』などのうがった見方もあるが、ここは『無償の善意』を信じよう」とか、「これがグローバル化時代の連帯の精神だ」という評価が、こともあろうに産経新聞から発せられていることだ。だがわたしは、「無償の善意」だけのはずがなく、やはり「うがった見方」を併せ持つすべきだと思う。http://sankei.jp.msn.com/world/news/110402/erp11040207380004-n2.htm

*3:http://www.jasdec.com/reading/for_pubinfo.php

*4:[http://www.amazon.co.jp/dp/4828413820/