橋本寿朗『デフレの進行をどう読むか--見落された利潤圧縮メカニズム』(岩波書店)についてのメモ

デフレの進行をどう読むか―見落された利潤圧縮メカニズム

デフレの進行をどう読むか―見落された利潤圧縮メカニズム

この本は随分前に読んだが、おおよそ以下のようなことが述べられていた箇所があったように記憶している(いま、この本はあいにく手元にないので、正確な引用はできない)。すなわち、90年代以降、原価に一定の利幅を付加したマークアップ型の価格設定ができなくなくなってきたとする企業が増えてきた、と。この箇所を一読した限りでは、単に企業間競争が激化したのかとしか理解できなかったのだが、考えてみればある意味で当たり前の話だと思う。理由を以下に示す。

かつての高度成長期においては、鉄鋼・化学・ガラス・セメント・ゴムといった装置産業が主体であったが、この種の産業では、参入障壁の関係で寡占化しやすく、買手間競争が激しくなって価格が高めに設定されやすい。しかし時代が下ると、装置産業主体の時代から、電機・電子・一般機械・輸送機械(とくに自動車)・事務機器といった組立産業が主体の時代になってくるが、この種の産業では、一般消費者を相手にすることが多いために、売手間競争が激しくなりやすく、価格が低めに設定されやすい。

つまり国民経済の全体的な傾向として、価格設定の決定権が売り手サイドにあるという産業のウェイトが低下し、逆に買い手サイドにあるという産業のウェイトが上昇しているわけだ。こうした産業構造の変化こそが、マークアップ型の価格設定を困難にさせてきた真因ではなかろうか。