読了/高原基彰『不安型ナショナリズムの時代』

雇用の流動化に端を発する国内の社会変動から、日中韓の3カ国のナショナリズムを検討した著作。

論旨にはおおむね賛成なのだが、社会変動が反日ナショナリズムや嫌中・嫌韓ナショナリズムを生み出すメカニズムの説明をもう少し丁寧にしてもらった方がよいように思う。また、雇用の流動化が引き起こされた要因の説明に関しては、ちょっと危なっかしい議論をしているところがないわけではないし、「補助線」を引けばもっと上手に説明できると思われる点もある。たとえば、自分ならば、雇用の流動化は、むしろ主導的な財の性質やライフサイクルの変化から説明したいと思う。また、東アジアでは、系列システム(日本)、財閥(韓国)、国有企業(中国)という、装いは異なるがいずれも堅固な企業組織が1990年代以降解体されていき、その結果として生じた雇用の流動化にともなう不安感が趣味化したナショナリズムを起動させたと捉えることも可能であると思われるのだが、そうであるならば、説明に必要なツールは、企業間関係論や取引費用経済学の知見だろう。

しかしながら「スケールの大きい地図を描くことを目指した」という著者の問題設定は、高く評価されてよい。20代で新書デビューした著者の今後に期待したい。