山崎正和の名言

2020/08/26 日本経済新聞 朝刊 38ページ(編集委員 内田洋一)

  育った先は大陸の満州中国東北部)で、辛酸をなめた引き揚げ者だった。人工国家の崩壊や父の死で存在の不安に突き落とされ、シェークスピアを貪り読んだ。根にあった虚無感は、実体験がもたらしたものだろう。瀋陽ソ連兵に足もとを撃たれたり、集団で凍死する日本人避難民を目にしたりしている。

 阪神大震災のあと、インタビューにこう答えた。「文明は政治的な制度も含めて、ほんの薄皮一枚剥いだら、後はアナーキーと人殺しと大混乱ですよ」。その考えによれば、文明を守る大切な約束事が社交であり、遊びであり、最たるものが劇場文化であった。