読了/本山美彦『姿なき占領』

姿なき占領―アメリカの「対日洗脳工作」が完了する日

姿なき占領―アメリカの「対日洗脳工作」が完了する日

前著『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』(ビジネス社)の続編だが、どちらかと言うと、前著のほうが読み応えがあった。本書の白眉は、第7章「『宗教ビジネス』に走る超大国の末路」で、『レフトビハインド』という馬鹿げた小説の流行から、アメリカという国のいかがわしさを浮き彫りにしている。アメリカ人のなかには、国際政治の現実と、空想(小説のストーリー)が頭のなかでごっちゃになってしまって妄想に駆られている人が多いのかもしれない。


著者の書物で感心させられるのは、アメリカの傲慢さ・パワーの強さに対する批判が一貫していることである。日本の学者のなかには、アメリカが嫌いだからか、やたらとアメリカの覇権衰退を取りざたする者が多い(特にマルクス系の学者に多いが、リベラル系にもこういう学者がいる)。おそらく、「アメリカはさっさと衰退して欲しい」というパーソナルな願望と、社会科学としての未来認識とが、頭の中でごちゃ混ぜになっているのだろうが、まことに残念なことに、こうした言説は、少なくとも過去20年近くに渡って一貫して現実によって裏切られ続けている*1


しかし著者は、マルクス系の学者には珍しく、アメリカの覇権衰退を取りざたしない学者である。著者がアメリカを嫌っているのは明らかで、おそらく「アメリカはさっさと衰退して欲しい」と願ってもいるだろうが、しかしそうしたパーソナルな願望が、現実分析に持ち込まれることは、ない。願望と事実認識が明確に峻別されているのである。こうしたアメリカの覇権、パワーの強さに対する著者の諦観は、氏がかつて翻訳を手がけたスーザン・ストレンジに由来しているのではないかと思われるが、それはともかくとして、著者にはこの調子で今後も引き続きアメリカの傲慢さ・パワーの強さについて、論じて欲しいと思う。勉強になります。



 

*1:これだけアメリカの覇権衰退が論じられ、それが一向に具現化しないとなると、こうした問いの立て方を根本的に変え、次のような分析をしたほうが良い。すなわち、「アメリカの覇権衰退などイリュージョンでしかないのに、なぜ日本ではこれほどまでに多くの学者がこのテーゼに取り付かれ、論じようとするのか」についての知識社会学的な分析、である。