北海道トムラウシ山での遭難事故に思う(3)

最後に、ツアーのあり方について、二つほど苦言を呈しておしまいにしたい。


一つは参加者の問題である。番組(クローズアップ現代)では、生存者の一人が、「(こうした登山ツアーは)自分で企画立案とかしなくていいから、下調べもあまりしない。どのぐらいの気温とか・・・」と言っていたのが、とても印象的だった。登山ツアーの参加者のなかには、この種のことをよく調べずに山に登る人が、少なからずいるらしい。だが自分できちんと調べ、何がどの程度必要なのかを検討もせずに、山に登っていたとすれば、それは、自殺行為に近い。


もう一つは、ガイドの問題である。ガイドは3人いたことになっている。だがこれは本当に「ガイド」だったのだろうか。このうち2人は、トムラウシ山が初めてだったというから、これは「名ばかりガイド」だと思う。なぜかというと、初めてであれば、次のようなことを何も想像できないはずだからだ。


1)悪天候のとき、ヒサゴ沼避難小屋から短縮登山口までの間の登山道のどこが難所となるのか。そしてそこを超えて歩み続けるためには、何をどのように気をつけるべきなのか?
2)大雨で沼の水が溢れて登山道が「川」になったとき、そこを横断するのがどれぐらい厄介なのか?
3)いざというときに、引き返すとすれば、どこまでに判断を下さねばならないのか。
4)ぬかるんでいるであろうはずの悪路を、はたして、参加者全員が夕方までに一日で下りきれるのか?


ガイド自身が、こういった事柄に考えをめぐらせるためには、その山の登山道を何度も何度も歩いて、その登山道ならではの「クセ」を把握しておかなければならない。大雨の影響で沼から溢れた水のせいで登山道が川になってしまっているとか、急峻な岩場が大雨のせいで「滝」のようになり、その「滝」をずぶぬれになりながら登らねばならない、といった状況を経験しておかねばならない。だがこのパーティーで唯一、トムラウシの縦走経験者だったガイドも、その経験回数は5回程度だったようだ*1。となると、このような悪天候の経験はなかった可能性がある。もしそうだとすれば、このようなガイドに依存したトムラウシ登山ツアーは、潜在的に「自殺ツアー」だったことになる。こうした結論を「極端だ」と思う人とは、一緒に山に登りたくはない。生きて降りてナンボなのだから、登山は十分過ぎるほど慎重であるべきだ、とわたしは思う。



残された疑問点。ヒサゴ沼避難小屋から短縮登山口までは、晴天であれば10時間程度であるが、今回の遭難事故の場合、朝5時半に出発したのに、最も早く下山した二人でさえ、その下山時刻は夜11時50分であった。18時間以上を要したことになる。途中で1時間以上留め置かれたとは言え、ずいぶん長い。コマドリ沢分岐付近から短縮登山口の間でさえ、夜だったとは言え、8時間もかかっている*2。天気のよい日の家族5人のファミリーハイクでは、3時間のところである*3。いったいなぜこんなに時間がかかったのか。登山道がよほどぬかるんでいたのだろうか。それとも疲労と寒さのなせる業だったのか。だがこれについては、番組でも言及がなかった。続報を待ちたいと思う。