被災地の入浴

およそ16年前の春、わたしは神戸市長田区を歩いた。阪神淡路大震災から2ヵ月余りが経過し、東京で地下鉄サリン事件があった直後である。


たずねたのは、街づくりで有名な真野地区だった。ボランティアとしてではなく、社会調査としてのわずか数日の滞在だったが、昼は地震で崩壊した建物を撤去した更地や、瓦礫の仮置き場を目の当たりにしながら、真野の人たちから話を伺い、夜は地元の被災者と酒を酌み交わしたあと、避難所の校庭のテントや、自治会の集会場で寝袋にくるまって、寝泊りをした。


その時の思い出として印象に残っているものに、1度だけ行った「かるもプール」がある。ここは隣のゴミ焼却場の余熱を利用した温水プールだったので、震災後しばらくして、プールの真ん中をビニールシートで男女別に区切り、両側に洗い場を設けた臨時の入浴施設となっていた。あとにもさきにも、深さ1mもの「湯船」は、あれ以外に経験がない。真っ裸でプールにつかるのも、どうも妙な気分だった。そのかるもプールも、老朽化ということで2009年には閉鎖されてしまい、いまはない*1


報道を見ていると、被災者のなかには、地震後一度も風呂に入っていないという人も多いらしい。温水プールでなくてもシャワーだけは温水というところは多いので、せめてプールのボイラーが稼動すれば、シャワーだけでも浴びることができるはずなのだが。