ケインズの「アニマル・スピリット」について:驚くべき理解の一例

また、氏による主張は、投機の過熱を「アニマル・スピリット」と名付け、投機的な金融の肥大化に対する深刻な懸念を表わしたケインズの真意を汲んだ流れに位置していることがわかる。

加藤眞理子「解説」スナンダ・セン(加藤眞理子訳)『グローバリゼーションと発展途上国:インド、経済発展のゆくえ』(新泉社、2012年)、p.234より。


これはひどい。この人は「アニマル・スピリット」という言葉がどういう意味であるのか、まったく理解を間違えている。こういう間違った理解をしているので、翻訳文も、面妖なことになっている。たとえば以下の抜き書き。

さらに、金融市場の規制緩和によって金融資産の購入が容易になり、しかも金融資産はより儲けを出しやすい資産になったために、株式市場(不動産収入の場合もある)からあがった「ホット・マネー」は、金融資産の購入に振り向けられるようになった。しかし、このようにしてあげられる収益は、実体のある資産によって直接生み出されているものではない。つまり、かつてケインズが「アニマル・スピリット」と呼んだような、手早く儲けを出そうとする、こうした誘因によって、将来において経済成長をもたらしうる生産的な投資が阻害される恐れがあるのである。

スナンダ・セン(加藤眞理子訳)『グローバリゼーションと発展途上国:インド、経済発展のゆくえ』(新泉社、2012年)、p.126より。


どうしてこんな訳文が出てくるのか、よくわからない。最後の一文は、次のように訳すと、正しく意味が通る。


「つまり、手早く儲けを出そうとする、こうした誘因によって、かつてケインズが「アニマル・スピリット」と呼んだような、将来において経済成長をもたらしうる生産的な投資が阻害される恐れがあるのである。」


原文を見ていないので断定はできないが、訳者は「アニマル・スピリット」を間違えて理解しているので、原文を捻じ曲げて訳したのではないかと疑われる。


訳者は、2012年4月から西南学院大学経済学部国際経済学科の教員だそうであるが、
http://www.seinan-gu.ac.jp/econ/kokusai/staff.html
には名前がない。だが、上記のページは最終更新が「2010年11月」。4年間も更新していないって何事・・・。



グローバリゼーションと発展途上国―インド、経済発展のゆくえ (サス研ブックス)

グローバリゼーションと発展途上国―インド、経済発展のゆくえ (サス研ブックス)