読了

脱グローバル化

脱グローバル化

どうにもつまらない本である。


――現在のIMF世界銀行WTOは途上国の貧困と不平等の縮小に役に立ってないどころか、貧困を一層悪化させている元凶である。グローバル資本主義は、アジア通貨危機、シアトルにおける反WTO運動、ニューエコノミーの破綻などによりその危機を深めている。さらに①多国間主義の危機(単独主義を強めるアメリカ)、②新自由主義的なビジョンと秩序の危機(世銀を批判した米メルツァー委員会報告書など)、③企業の危機(エンロン事件など)、④軍事的システムの危機(対テロ戦争の激化)、⑤自由民主主義の危機(企業献金によって腐敗した政治)、⑥グローバルな生産システムの危機(利潤率の低下)という、6つの異なる危機が交錯している。IMF世界銀行WTOという国際経済機関は、先進国のための機関に過ぎず、世界人口の多数を占める途上国の声を無視することで民主主義の原理から逸脱した機関となっており、公正な世界経済体制の妨げになっている。グローバル・ガバナンス委員会による経済安全保障理事会の創設案、ジョージ・ソロスIMF改革提案、さらに国際的投機を防ぐトービン税などでは、こうした歪んだ世界経済体制の変革にはならない。必要なことは、「もう一つの中央集権化されたグローバル機関ではなく、制度化された権力の分散化と脱中心化」である。――


まあここまではいい。しかし、さんざんラディカルに見えることを言い募った挙句、(地域社会と)国民国家の再強化を訴える、というのがよくわからない。しかも、わざわざイギリスの保守思想家・政治哲学者であるジョン・グレイの言葉を引いて、国民的な文化を保護することが大事だ、というのだから並大抵ではない。実際、この本の末尾には「原著者による読書案内」として幾つかの著作が掲げられているが、その冒頭でジョン・グレイの『グローバリズムという妄想』が「グローバル化に対するすばらしい批判」として評価されている。


じつは昨年も、これと似たようなことを経験したことがある。日本のある左派経済学者が、「グローバリズムを推進しているIMF世界銀行体制に抗していくためには、やはり国家権力を強化しなくてはならない」と大真面目に発言していて、卒倒しそうになった。誤解を避けるためにいえば、グレイはすばらしい学者だし、グローバリズムに対抗するために国家権力を強化するという選択肢も、ありだと思う。問題は、こういう言説が、「ラディカル」だと評価され評判になっている左派の学者の口からためらいもなく発せられるという点にある。本書の訳者と解説者は、著者ベローを絶賛しているのだが、わたしにはむしろ、こういう左翼がナショナリティへ回帰していくというのは、かなり深刻な知的後退にしか思えない。「じつにつまらない本だ」というのは、まずもってこの意味においてである。