読了

分断される経済 バブルと不況が共存する時代 (NHKブックス)

分断される経済 バブルと不況が共存する時代 (NHKブックス)

景観の話と雇用の話とが、混じっている。どうしてこうやって混ぜるのだろうと思ったのだが、かなり読み進めると、要は本源的生産要素である土地と労働の話をしているのだということがわかる。そうであるならば、そうであると、もうちょいと初めのほうに明示してくれたほうが、読者に対して丁寧ではなかろうか。

第二章での消費財市場の類型化が興味深い。すなわち、売り手市場vs買い手市場、マスメディアvsパーソナルメディアという二つの対立軸をXとYにすると、50年代は「パーソナルメディア」(口コミ)主導かつ「売り手市場」、70年代半ばまでは「マスメディア」主導かつ「売り手市場」だったのが、その後「マスメディア」主導かつ「買い手市場」となり、90年代後半に入ると「パーソナルメディア」主導かつ「買い手市場」となっている、という。この背景にあるのが、テレビの後退、ネット・ケータイの台頭である。

あとは、清水谷諭の不確実性論批判とか、日本の建造物の寿命の短さは作為的で、業界が立替体質に染まっているといった指摘が、評価に値する。どうやら著者は、不安・不確実性や景観といった社会的要素について論じると本領を発揮する人なのではないか。よって郵政民営化批判と年金改革批判には見るべきものがないのでやや余計。あと、もう少し「分断性」について掘り下げて論じるべきだろう。前著『長期不況論』(isbn:4140019638)と比較すると、かなり「ごった煮」かつ「やっつけ」で書かれている。個別に見ると興味深い指摘がいくつもあるだけに、議論が散漫になっているのが残念。