読了/ウルリッヒ・ベック『グローバル化の社会学』

グローバル化の社会学―グローバリズムの誤謬 グローバル化への応答

グローバル化の社会学―グローバリズムの誤謬 グローバル化への応答

ベックの主張を一言でまとめると、グローバル化は危機ではなく、「トランスナショナルな国家」*1を形成していくためのチャンスだ、しかしそれに失敗すると、「ヨーロッパのブラジル化」、すなわちゲーテッド・コミュニティが孤島のように点在し、それ以外のところでは暴力闘争が蔓延するというような、ブラジルのような分断された社会が形成されかねない、ということだと思う。


この本は、グローバリゼーション研究の研究書としては、興味深い論点を多く含んでいるものの、読みにくい。引用が異様なまでに長かったり(一つの項の大半が、一引用で占められているところもある)、どこまでが事実でどこまでが著者の希望なのかがわからなかったりする。また、この分野の諸説に対するベック自身の見解が展開されているが、これらも、もともとの諸説を知らないと理解しにくいかもしれない。しかも、論旨の運び方も曲がりくねっていたりして、明快とはいえない。前邦訳『世界リスク社会論』と違って、日本語として意味不明な訳文はほとんどないが、こなれているとも言い難い(しかし、ベックの著作としてはこの程度が限界かも)。いずれにせよ、気安く読める本ではない。


それにしても、ベックにしろ、ギデンズにしろ、再帰的近代化論者、あるいはセカンド・モダニティの論者というのは、どうしてこんなにオプティミスティックなのだろうか。

*1:自己の権力の手段を、トランスナショナルな審級に委ね、そこでの協同を促していくことで、自己の影響力と形成力を高めた国家のこと。互いに他の国家と連携することによって、ナショナルなものを超えた主権とアイデンティティを獲得した国家でもある。かなり理念的な国家像。