読了(山内・北『〈眠り病〉は眠らない』)

“眠り病”は眠らない―日本発!アフリカを救う新薬 (岩波科学ライブラリー)

“眠り病”は眠らない―日本発!アフリカを救う新薬 (岩波科学ライブラリー)

<眠り病>は、深刻さを増しているアフリカの風土病である。ツェツェバエによって媒介されたトリパノソーマという原虫が人間の体内に侵入すると、最悪の場合、死に至る「眠り病」となる。家畜がトリパノソーマに感染した場合は「ナガナ病」となるが、この場合も家畜は死んでしまう。

本書は以下のことを教えてくれる。第一に、アフリカでは、眠り病の深刻さが増していること、第二に、ツェツェバエの生息地である熱帯アフリカの約1000平方キロは、ナガナ病にやられてしまうため家畜を買うことが出来ないこと、第三に、ところがツェツェバエの生息地は本来は農業に適した土地であるにもかかわらず、家畜を飼えないので農業生産性が大きく低下してしまっていること、である。「FAO(国連食糧農業機関)は、家畜のトリパノソーマ症がアフリカの農業活動に大きな影響を与えており、ツェツェバエ汚染地域に住む人たちの半数にとって不安定な食糧確保状態を招いていると警告している」という(p.24)。

アフリカの低開発の最大原因は、工業の未発達ではなく農業生産性の著しい低さだ、というのは、アフリカ研究者の平野克己氏が強調していることだが(平野編『アフリカ経済学宣言』など)、本書は、こうしたアフリカの低開発の要因である農業生産性の低さを、トリパノソーマという病気の見地から説明しており、ここに面白さがある。ただし、医学的な説明は正直言って理解できなかった部分が多かった(特に第6章)。それと、このサイズとこのボリュームで1200円はやや高い。