高崎経済大の二の舞か:東京学芸大が60歳代教授を懲戒解雇

ゼミ女子学生と交際、東京学芸大が60歳代教授を懲戒解雇
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080812-OYT1T00606.htm

同大は「セクハラとは認定していないが、教員と学生という従属関係にあり、不適切だった」としている。この教授は「自由恋愛で解雇処分は重すぎる」と反論しているという。


懲戒解雇:東京学芸大60代教授…学生との不倫で
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080813k0000m040064000c.html

同大の鷲山恭彦学長は「教員を養成する大学として師弟間の交際は許される行為ではなく、その点を重く考えた」と説明した。


この処分として、懲戒解雇は妥当なのだろうか。女子学生サイドに立つ人にとっては拍手喝采の処分かもしれないが、法的には、これで懲戒解雇処分というのは重過ぎる気がしてならない。詳しい状況がよくわからないが、報道を読む限り、この教授が懲戒解雇の処分撤回を求めて訴えたら、大学は負ける可能性があるように思える。だいたい、先日の高崎経済大の一件からもわかるとおり、刑事事件を起こしたわけでもないのに懲戒解雇処分なぞ簡単にできると思うほうが間違いである。どうも最近、感情的に懲戒解雇処分を乱発しているとしか思えない(単科)大学が目立つ。こういう大学は、結局のところ、裁判で負けたときに、自らのリーガルマインドの無さを露呈することになるだろう。


そもそも教員と学生の恋愛関係について、海外ではどのように対応しているのだろうか。まずアメリカでは、大学教員と学生の恋愛関係は否定されていない。ただし教員が大学に対して「学生と恋愛関係に落ちたこと」を通告しなければならず、これにより教員は、当該の学生に対する指導教員としての立場からは降りなければならない。自由の国なので、教員と学生が恋愛関係に落ちることは咎められないが、ただし破局を迎えたとき(または迎えそうになったとき)に、単位の認定をめぐって、学生が教員からハラスメントを被る可能性があるので、そのようなことが起こらないように、あらかじめ指導関係を断ち切っておく、というわけである。またヨーロッパでも、ハイデッガーアレントのような有名な例もあるように、教員と学生の恋愛は一般的である。


「大人の男女が存在する限り、恋愛が生じるのは不可避である。そして自由主義国家である以上、それを制限することはできない。そうであるならば、ハラスメントだけは発生しないように、一定のルールを設けておく」――これが、教員と学生の恋愛に関するグローバル・スタンダードである。それなのに、日本も自由主義国家であるはずなのに、「師弟間の交際は許される行為ではなく」などという法的根拠レスの私的論理を振り回し、挙句の果てに懲戒解雇という形でもって国家原則を否定するかのような処分を下す学芸大の見識のなさは、眩暈がしてくるほど絶望的である。女性学生を慮る気持ちはよくわかるし、何らかの処分は必要だろうが、そうした処分はあくまでも、日本の国家原則と適合する形で下されなければならない。いわんや、大学が師弟間の交際を禁じるようなことがあれば、それは憲法違反だろう。私的感情で法を乗り越えることは許されないのである。