読了(高橋『先生とはなにか:京都大学師弟物語』)

先生とはなにか―京都大学師弟物語

先生とはなにか―京都大学師弟物語

興味深い本である。著者が言うように、京大経済学部については、東大経済学部と比べて、教授の自伝やその人間模様を描いた本が、遥に少なかった。この空白を埋める本である。文体も、円熟した老大家ならではのもので、回想録にふさわしい。後述するように、内容の評価は別として、この文体は、若者や中堅には真似出来そうにない。また本書は、京大経済学部の歴史を知る上でも、貴重な資料となっており、関係者は必読である。わたしとしては、松井清氏の「豪傑」ぶりを描いた叙述をおもしろく読んだ。


あとがきにある、編集者Aというのが、誰なのか、読んですぐピンと来た人は、社会科学の書籍の出版事情に多少は通じた人であろう。


ところが、amazonのブックレビューを見ていたら、この本の中でも取り上げられている京都大学経済学研究科の今久保幸生氏が、本書の著者と、出版社及び編集者Aに対して、激烈な抗議を、A4で19ページも費やして行っている*1ことを知った。そして結果としては、この今久保氏の抗議文自体が、もうひとつの「京都大学師弟物語」にさえなっている。それにしても、昔の大学教授の気難しさとむら気は、今の比ではない。エリート意識のなせる業なのだろうか。


この種の回想録は、確実に意義があるのだが、正確に、また関係各方面とフリクションなしに書くのは、難しいのだろうか。それとも、著者の執筆姿勢にも問題があるのだろうか。なお、akamac先生のレビュー*2は、大いに参考になる。