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ウナギ―地球環境を語る魚 (岩波新書)

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初めて学ぶ人のための経済入門

初めて学ぶ人のための経済入門


「プロト経済学」*1の試み。本書は、神奈川大学経済学部に所属する教員16〜17名が担当する1年生向け「経済入門」のテキストである。この種の授業は少なくないが、これまでは、それぞれの教員が、自分の教えたいことと、教えられる内容とを、ばらばらに教えていたように思われる。こうした不統一を排し、1年生が知っておくべき知識を、ひとつの大学の学部として統一するというのは、じつに画期的な試みである。内容は、経済理論(ミクロ・マクロ)から財政・社会保障・金融・企業・労働・国際経済・経済史および経済学史となっている。


この種の本に類似した試みのものとして、高橋勉『「公民」が苦手だった人のための現代経済入門講義』(法律文化社、2008年)がある。当たり前と言えば当たり前だが、取り上げられている項目は、両者でさほど違いない。それでも、両者の違いは、ざっと見たところ少なくとも二つある。ひとつは、高橋がマルクス経済学者のためミクロ・マクロ的な要素を薄めているのに対して、『初めて学ぶ人のための経済入門』ではミクロ・マクロ的な要素を一応(簡単ながら)意識していることである。


もうひとつは、取り上げる項目の順番である。高橋書では、「最初はどうしても、第二次大戦後の日本経済の歩みからはじめなければならなくなってしまいます。というのも、今のことを理解するには、これまでのことをある程度わかっていなければならないからです」(p.1)として、最初の2回を戦後日本経済論にあてているのに対して、この『初めて学ぶ人のための経済入門』では、戦後日本経済論が最後のほうの章(第12章と第13章)に回されているのが大きな違いである。書物としての難易度ともかかわるが、わたしは高橋書に軍配を上げる。最初にごく簡単な歴史的経緯を説明したほうが、のちのちのトピックの理解と解説がスムーズになるからである。とはいえ、これは多少は好みの部分もあろう。


経済学を学ぶと言えば、最初は、むかしならばマル経原論、最近はミクロ・マクロというのが定番だった。だが、マル経原論やミクロ・マクロをいきなりゴリゴリ教えるのが経済学の入門講義だというのは、少なからぬ大学で限界に来ていると思う。どうしてかと言うと、経済学は、ある程度、実際の経済の現実を知っていないと、学ぶ意義や面白さがわかりにくのに、いまや少なからぬ学生がそうした現実知識を欠いて大学に入っているからだ。「プロト経済学」の試みが必要なゆえんである。本書は、既存の経済学の入門講義のあり方に一石を投じる斬新な試みであり、その意気を高く評価したい。非経済学部の学生が、経済学という森を見通すためにも使える、画期的な入門テキストである。

*1:経済学を本格的に学ぶ前に知っておくべき、経済知識を教授するもの。高校「政治・経済」と学問としての経済学との橋渡しとなる内容で、経済の全体像を意識でき、理論・歴史・応用の各分野〔=ミクロ、マクロ、経済原論、経済史、金融論、財政学、環境、社会保障、労働、企業、国際など〕の学習の動機付けとなるナビゲーション的内容を現す。わたしのオリジナルな用語。