「喪中はがき」について:付和雷同的な日本社会批判

例年のことだが、この時期になると、「喪中はがき」なるものが、大量に(?)届く。


「え、あんたは特定宗教の信者だったのかい!?」と、突っ込みを入れたくなるような相手からのものも、多い。


喪に服す(ゆえに年賀状を出さない)というのは、もともとはある特定の宗教の考え方に過ぎない。元来、仏教にこの考え方はない。もっとも、土着信仰と仏教とが交じりあった結果、多くの仏教でもこの喪中という考え方が取り入れられた。ただそうは言っても、仏教のなかでも、浄土真宗にはこの考え方は入っていない。またキリスト教イスラム教にもこのような考え方はない。だから仏教徒でも浄土真宗の信徒だったり、キリスト教者だったり、あるいは無宗教の者は、喪に服すゆえに年賀状を出してはいけない、ということはない。他宗教の考え方を取り入れるほうが、おかしいはずだ*1


ところが、多くの日本人は、「親族の死=喪中はがき」と捉えている。親族が死んだら、年賀状を出してはいけないなどと、固く信じ込んでいるのである。自分でそう思っているだけならまだ許せるのだが、なかには「昨年身内が死んだばかりなのに、自分から年賀状を出してくるとはけしからん。『常識』がない。そういう相手からの賀状の返答としては、『寒中見舞い』を送るべきだ」などと、非常識にも人を謗る不届き者がいる*2。こういう、単なる特定宗教の慣習を「常識」と強弁し、それに従わない者を認めないという同調圧力をかけてくる偏屈なファシストは、先進自由社会の敵であり、わたしは、こういう人が大嫌いだ。日本には信教の自由と思想の自由があるのだ。人様に特定の教義を押し付けるんじゃない。


一方にこういう憲法違反(?)のファシストがいるためであろうが、「身内が死んだのだから、ちゃんと悲しまなくては!」とばかりに、無宗教なのに喪中はがきを出す者もいる。これを付和雷同という。こういった同調圧力に負けやすい主体性のない日本人と日本社会の付和雷同的体質をずっと批判し続けてきたのが、戦後の日本の社会科学であった。だから、無宗教者の左翼が、こういう喪中はがきを送っているようでは、困る。本当に困る。甚だ困る。っていうか不愉快だ。


なかでもこれは最悪だろうと最近思ったのは、左翼で、無宗教で、かつ天皇制に批判的なのに、喪中云々と言っている学者だ。親族の死のあと喪に服す期間を1年間と公式に定めたのは、明治の「皇室服喪令」である。なんで天皇制の批判者が、皇室の真似事をするのか。こういう左翼は信用出来ないし、性質が悪いし、友達付き合いもしたくない。書いていて、だんだん腹が立ってきた。


もう一つ気に食わないのは、「喪中につき(中略)ご挨拶をご遠慮申し上げます」という文面だ。もともと「喪中はがき」というものは、「誠に失礼ではありますが、こちらからは賀状をお送りできません」という趣旨だと思う。だから「喪中につき(中略)失礼させていただきます」とするのが適切だ*3。「ご挨拶をご遠慮申し上げます」というのは、「年賀状を送ってくれるな、ゴルァ!」と言っているに等しい*4はいはい、わかったよ、送ってやらねーよ(笑)。ちなみに、手元に届いた喪中はがきを見てみると、「失礼させていただきます」は、バンカーの友人一人だけで、残りはすべて「年賀状を送ってくれるな、ゴルァ!」じゃなかった、「ご挨拶をご遠慮申し上げます」だった。学者先生にこういうのが多いので、恐れ入るばかりだ。



わたしの両親は、仏教徒ではない。したがってわが親は、親(つまり、わたしの祖父母)が亡くなった直後も、まったく気にせずに実子であるわたしに年賀状を送ってきた。わたしは無宗教であり、両親が亡くなっても、方々に年賀状を送るつもりなので、そこのところよろしくお願いしたい。喪中はがきなんて一生実践しないからな。


 

*1:「喪中」とは何か:http://nihon.matsu.net/nf_folder/nf_koramu/nf_mochu.html

*2:正しい対応は「まったく気にせず年賀状を出す、但し投函が遅れたことを詫びる一文を認めて」である。これ以外にない。

*3:喪中はがきに思う:http://muratyan.cocolog-nifty.com/book/2009/12/post-27b4.html

*4:実際、最近の世の中には、「喪中だと挨拶したのに、年賀状送ってきやがった友人がいる、失礼だ、非常識だ」と喚く者もいる。こわい。何故ならば、喪中はがきは、相手からの賀状を拒絶するものではないからだ。そんなに送ってきて欲しくないのなら、誤解の生じないように、「ご挨拶を固くお断り申し上げます」とでも書けばよろしいがな。あるいは、賀状の受け取りを拒否し、郵便局を通じて差出人に返すという手もある。http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2009/0102/218786.htm?o=0&p=0