メモ(抜き書き)

台所があるのだから、炊き出しなど自分ですべきだと、隣県の知事が言ったとか言わなかったとか問題になったが、水もガスも電気もなく、家屋が倒壊している惨状下でどうやって飯を炊くのか、商店という商店が休業を余儀なくされているのに、必要物資をどうやって調達しろというのか。普通の生活を営める高みから出た発言で、いとも簡単に被災者の自立云々というものほど嫌らしいものはない。みずからが被災者の立場になって、恥ずかしいことだが、わたしはやっと途上国の人の恨みを理解できるようになった。

惨事を知らないで、いい加減なことは言わないでくれと、被災者の多くが抱いた気持ちは、現在の途上国の人々が、先進国出自の開発経済論者にたいして抱く反感と同じものであろう。

本山美彦「はしがき」本山美彦編『開発論のフロンティア』同文館、1995年、viページ、およびviiiページ。