読了(コリアー『民主主義がアフリカ経済を殺す』)

民主主義がアフリカ経済を殺す

民主主義がアフリカ経済を殺す


出版社が、前著と同じ日経BP社で、サブタイトルにも前著のタイトル「最底辺の10億人」が入っているので、前著の続編かと勘違いしてしまう人がいそうだが、そうではない。前著『最底辺の10億人』が後発発展途上国に関する概括的な開発論であったのに対して、本書は、内戦、人道的介入、民主化の経済分析である。だから、『最底辺の10億人』の続編ではなく、コリアーが主導してまとめた『戦乱下の開発政策』の続編だと理解すべきである。実際、本書は、コリアーがこれまでに発表してきた「内戦の経済学」の論文の論点を、一般的な読者にわかりやすく紹介する、という形になっている(すべてがコリアーの論文の紹介ではなく、他の研究者によるすぐれた研究の紹介もある)。

内戦やクーデターの発生要因、国家破綻のコスト分析などについては興味深く読めた。ただ対応策についてはやや説得力が鈍っている感があった。はっきり言うと、西欧諸国が数百年をかけてきた、徴税機構と国軍の相互発達を通じた公共財提供組織としての民主的な国家の形成のプロセスを、いくら先輩とはいえ先進国がアフリカ諸国に、数十年で移植し機能させることができるのかという疑念が、やはり拭えないのである。

本書は、平和構築や内戦の経済学、脆弱国家論などに関心のある人向けであり、一般的な意味でのアフリカ開発経済論や発展途上国論とは違う。内容そのものは高度ではないが、扱われている論点は、ややマニアックである。脆弱国家・破綻国家の現実を知らない人が読んでも、たぶん面白くないだろう。また、チャールズ・ティリーの国家論を知っていると、読みやすい部分がある。