読了

本年最後(たぶん)の読了記。

日本のもの造り哲学

日本のもの造り哲学

全体的な感想:
・いままで、「藤本理論は、組立産業には通用するが、装置産業にはあまり通用しないのでは?」と思っていたが、これは誤解だった。製造業ならほぼ全てに適用できることがわかった。
・CIA(比較制度分析)とアーキテクチャ論の相性が良さそうだという、かねてからの直感が正しいとわかった。また「日本企業=擦り合わせが得意」とは簡単には言えず、アーキテクチャ論を文化論に回収すべきではないとわかった。


興味深かった点:
・日産の本社への「クロスファンクション・チーム」の導入は、もともと同社の開発部門で行なわれていたもの→ルノーによって学ばれ、同社で全面的に取り入れられる→業務提携後、日産の本社にも組み込まれる(p40)
⇒「グローバル化の螺旋スパイラル」の典型例である。
・顧客のアーキテクチャ(製品・工程)と、そこに組み込まれる自社のアーキテクチャ(製品・工程)を切り分けて考えるという視点は、最終製品に偏っていた感のあるアーキテクチャ論の難点を克服するものであり、評価できる。
・「長い目で見れば、多くの製品はインテグラルとモジュラーの間を行き来しているのであって、モジュラーにいきっぱなしで帰ってこない製品ばかりではない」(p333)。つまり「アーキテクチャはスタティックなものと考えてはいけない」ということだ。これは重要な指摘だろう。



その他:
第5章「アーキテクチャの産業地政学」の見立ては、自分のかねてからの考え方と近く、特に目新しさは感じない。
第6章「中国との戦略的つきあい方」に示された中国企業の強みと弱みについての議論も同様で、これまた新味はない。中国の強みは、労働力無制限供給を前提とした華南型の単能工の大量の存在だが、この単能工とモジュラー型の電子電機機器生産とがうまくフィットしたこと、これこそが2000年前後の「中国脅威論」の隠された意味であったこと、この華南型単能工は自動車生産にはまったく向いていないこと、「擬似オープン・アーキテクチャへの換骨奪胎」が中国製造業の特色だということなどを、あらためて確認することができた。この章は全般的に、安室氏の著作(『徹底検証中国企業の競争力』(isbn:4532310555))を読んできた者にとっては、歯ごたえに欠ける。



全体としては「啓蒙書」であるが、これは貶し言葉ではない。優れた啓蒙書だと思う。藤本氏のよき読者ではない自分にとって勉強になる部分は多かったし、それなりに理解していた点についても、頭の中をすっきり整理してくれるという効用があった。もちろん、藤本理論を学びたいという人にもお薦めできる。