IT化するオールド・エコノミー産業(繊維業の実例)

デジタル素材一斉増産、三菱レイヨン東レ旭化成
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20050617AT1D1603Y16062005.html

「繊維産業には未来がない」というのが長年に渡る通俗的な理解であったが、こういう理解は正しくない。化学産業も含めて、この業界は確かに早くから衰退してきた。そのため60年代・70年代から、衣服以外の製品生産(エアバック、シートベルト、FDやCDの媒体、医薬品など)にシフトしてきただけでなく、長い歴史のなかで蓄積されてきた高度な研究開発能力で、新素材を次々と打ち出すなど、ビジネスモデルの転換を少しずつ進めてきた。こうした地道なビジネスモデルの転換が、IT革命とうまく結びつくことで、この業界は一気に息を吹き返した感がある。デジタル素材は、衣服と異なり中国など途上国メーカーとの競合が今のところは(ほとんど)ないので、利益率の急激な低下に見舞われる可能性は低い。

これに対して、デジタル家電メーカーが途上国メーカーの追い上げに苦しむようになったのは、90年代末以降のことである。つまり、これまで繊維産業が苦しんできたビジネスモデルの修正という課題に、いまになってようやく取り組んでいるところなのだ。

とはいえ、繊維産業のすべての企業がビジネスモデルの転換を成し遂げられたわけではなかったのと同じく、日本家電メーカーのなかにも、ビジネスモデル転換に成功しないところが出てくるだろう。したがって、大手電機10社(日立・東芝・三菱・ソニー・パイオニア富士通NEC・松下・シャープ・三洋)が乱立するという体制は、おそらくいずれ終わりを迎えるのではないか。株式市場には既にその兆候が見えている。