読了せず(長谷川榮一『石油をめぐる国々の角逐』)


近年の石油をめぐる国際政治経済を把握するに役立つかと思って手にとってみたが、期待はずれであった。

もっとも困ったのは、日本語がこなれておらず、全編を通じて読みにくいこときわまりないことである。誤字脱字もあるし、誤記も多い。また、適切な接続詞が用いられていないから、次にどういう話が出てくるのかがわからず、読んでいて疲れる。何というか、推敲をきちんとしないまま学生が提出したレポートを読まされているような気になってくるのである。

そのうえ、論述内容はといえば、全体的に英米の新聞に書かれていることの要約に終始した感が強い。著者独自の分析や見解などは、ごく一部しかない。とにかく読んでいてイライラしてくるのだが、逆に言えば、産油国・消費国ともに世界各国を広範囲にカバーしつつ、それらについて英米の新聞がどのように報道してきたかについて知る上では、役に立つ。そこで、情報摂取のためと割り切って、役に立ちそうな情報が記載されていそうな部分だけをツマミ読みするだけで済ませた。


著者は東京大学の法学部を卒業後、通産省に入省し、RIETIの研究員を務めたあと、現在は中小企業庁長官を務めている。おそらくキャリアだろうが、東大法学部卒と言えど、この程度の文章しか書けないのかと思うと、愕然としてくる。アカデミックなトレーニングを受けていないせいもあるのだろうか。


ところが、世の中というのは恐ろしいものである。こういう本を評価したり書評で取り上げたりする有名人が何人もいるからである。

財団法人日本総合研究所会長の寺島実郎氏は、本書の帯で「長い付き合いだが、著者長谷川榮一氏がニューヨーク、ワシントンで活躍していた時以来、物事を冷静に深く洞察しようとする姿勢に感服してきた。この本は、彼の石油・エネルギーに関する丹念な地政学的考察の集積である」という称賛の一文を寄せている。

はたして寺島氏は、この粗の多い本を事前にきちんと読んだ上で、このような推薦の一文をしたためたのだろうか。自分が著者の長谷川氏の友人だったら、こういう称賛の一文をしたためることはできない。逆に「もっとちゃんと推敲しろ、恥をかくよ」と言うだろう。それが知人の務めだと思うからである。


読売新聞の書評欄で本書を評価したのは、榧野信治氏(読売新聞論説副委員長)である。
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20090406bk08.htm
朝日新聞では、小杉泰氏(京都大学教授・現代イスラーム世界論)が本書を取り上げた。
http://book.asahi.com/review/TKY200904210095.html

こういう事例に遭遇するにつけ、大新聞の書評というのはつくづくあてにならないな、という思いを強くする。


こういう粗の多い本を読まされるにつけ思うのは、担当の編集者は何をしているのか、ということだ。版元であるミネルヴァ書房の担当編集者にも、責任の一端があるように思う。