読了(石井・藤『世界を動かす石油戦略』/藤『石油を読む』)

世界を動かす石油戦略 (ちくま新書)

世界を動かす石油戦略 (ちくま新書)

石油を読む―地政学的発想を超えて (日経文庫)

石油を読む―地政学的発想を超えて (日経文庫)


世に、石油をめぐる本は多い。その少なからぬものが、国際政治学や安全保障論などを専門とする者によって著された書物である。問題は、彼らが「地政学」的発想で石油を見てしまっていることにある。これがなぜ問題かというと、地政学的発想では捉えられない石油市場の実態について、彼らは何も分かっておらず、したがってその分析も、端的に言って間違っているからだ。石井彰・藤和彦『世界を動かす石油戦略』(2003年)は、こうした非石油専門家がふりまわす石油の「地政学」や、その市場取引の実態や石油をめぐる俗説・神話(「石油はまもなく枯渇する」論、「メジャーが世界の石油市場と価格設定を牛耳っている」論、「米国は中東原油に依存している」論など)の間違いを丁寧に批判している。


ところで、わからないのが、藤和彦『石油を読む』第二版(2007年、ただし初版は2005年)である。なぜわからないかというと、これは藤の単著なのだが、書いてある内容の大半が、石井彰・藤和彦『世界を動かす石油戦略』と同じだからだ。

まず第一に、こういう、ほとんどかなりが同じ内容の本が、別のタイトルで別の出版社から出るのは、(小説じゃあるまいし)よくない。もし二冊の著者が別人だとしたら「剽窃」と判断されるぐらい、内容が似ているのだ。この点、版元(日本経済新聞出版社)はちょっと反省して欲しい。藤は通産省のキャリア官僚だが、もし藤が大学の教員になろうとして「研究業績書」を作り、そこの「著書」の欄に、この二冊を並べてきたとしても、わたしだったら、著書「2冊」とは認めないぞ。

第二に、先に出た『世界を動かす石油戦略』は、石井彰・藤和彦の共著なのに、これと内容の酷似した、後に出た『石油を読む』が、藤和彦の単著だというのは、どういうことなのか、わけがわからない。


『石油を読む』は、第二版が2007年なので、図表やデータが新しくなっているというメリットがないではない。だが内容の大半は、石井彰・藤和彦『世界を動かす石油戦略』と重複しているので、こちらを読んでいれば、読む必要性に著しく欠ける。そして石井の主張は、『石油 もう一つの危機』のほうが読み応えがある。だから、『石油 もう一つの危機』と、『世界を動かす石油戦略』を読んでいれば、『石油を読む』は読まなくていい。