論考読了

水野和夫(2010)「日本はデフレから脱却できない」『エコノミスト』88(4):68-71.

これは読む価値がある。500年の利子率の推移と、近代資本主義の歴史のなかに現代を位置づける水野さんの書くものは、常に文明論的であり、預言者めいているが、今回のものもまた、預言者めいている。冷徹な資本の論理を、500年という長期のスパンでスケッチする者だけが描き出しうる冷徹な近未来のシナリオには、背筋がゾクゾクさせられる。

潜在力の高い人民元が自由化され、世界中どこからでも中国に投資できる環境になったとしよう。その時、仮に中国の10年国債金利が8%なら、日本の10年国債も同じ程度の利回りにしないと海外はおろか、日本の投資家も買わない。
これは日本だけでなく、欧米先進国すべてに当てはまる。つまり、いまは各国の超低金利政策で異常に低い金利に抑えられているが、経済成長著しい新興国が次々に資本を自由化し、国債社債を外国人が自由に買えるようになれば、長期金利はその水準まで急上昇する。17世紀のイタリアでもそうだったが、投資家はいつの時代も国境など関係ない。自国に有利な投資先がないと判断すれば、リターンの高いところに資金を移す。先進国はキャピタル・フライトの危機に晒されているのだ。
中国をはじめ新興国は、自国の都合だけで通貨の自由化を進めていくだろう。逆に言えば、日米欧先進国は中国が通貨の自由化を決行する前に、財政の健全化をしておかなければならない。