読了『エネルギー論争の盲点』

エネルギー論争の盲点 天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書)

エネルギー論争の盲点 天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書)


これは良い本である。人間社会や経済にとってエネルギーとは何かといった根本的な議論がなされているからである。3.11後ににわかに注目を集めている電力問題は、エネルギー問題のごく一部でしかないこともわかる。

著者は、私がかねてから石油に関してもっとも信用を置いているエコノミストである。実際、石井氏の旧著『石油 もう一つの危機』は、巷に溢れる石油本・エネルギー本と比較して、ずば抜けて優れた良書である。この『石油 もう一つの危機』では、2000年代後半における石油価格高騰の原因を中国爆食に求める説を、説得力をもって明確に退けており、同時になぜ価格が高騰したのかを金融取引の観点から説明していた。著者は、巷に溢れるエネルギーや石油をめぐる通説の間違いを、はっきりと「間違い」と叫ぶことのできる人である。某商社の資源専門家とは格が違うのである。

本書『エネルギー論争の盲点』では、旧著『石油 もう一つの危機』とともに、エネルギーや石油に長く通暁してきた者だけが明らかにできるトリビア的なトピックが散りばめられている。これは他の書には真似の出来ない点である。タイトルは、3.11を意識しているように見えるが、本書を読めば、便乗本ではなく、3.11以前から構想されていたと思われる。もちろん原発再生可能エネルギーについても扱われており、両者の問題点と限界についても明確にしている。石井氏は本書でもまた、通説の間違いと浅はかさを批判している。価値ある一書である。