化学産業としての繊維業と、IT化する繊維・セメント・ガラス業

繊維大手6社、全社で増収増益 薄型TV部品など好調
http://www.asahi.com/business/update/0513/114.html?t

つい数年前まで「オールド・エコノミー」「構造不況業種」と罵倒されまくっていた繊維各社の業績が絶好調だ。増収増益の主要因は、自動車用のエアバック、ブレーキパッド、さらに液晶画面用のフィルムなど、高機能化成品に注力し、ここで大きな収益を上げることができるようになった、という点につきる。逆にいえば、繊維事業で儲けているわけではない。


あまり知られていないことだが、大手繊維各社のなかには、繊維部門以外の構成が過半数を占めている企業が多数ある。日清紡日東紡帝人東レ東邦テナックス三菱レイヨンクラレなどがそうである。日清紡はブレーキ製品や紙製品、日東紡は建材やグラスファイバー帝人は化成品や医薬品、東レはプラスチック・ケミカル、三菱レイヨンクラレは化成品や樹脂がウリだ。つまり、業種としては「繊維」なのだが、業態自体は繊維業ではなく化学産業に近い。さらに言えば、液晶画面用のフィルムで利益を稼ぎ出すあたり、IT産業(の在庫変動)との連関を強めている、ということにもなる。


これもまたほとんど知られていないことだが、「失われた10年」のなかで大きく伸びた産業は、自動車でも電機でもない。じつは化学産業なのである。1985年を100とした場合の、2000年の付加価値額は、医薬品を含む化学工業で144.5、医薬品を除く化学工業で131.0、有機化学工業では136.4となっており、これは、製造業平均の131.0や輸送用機械器具の120.9を上回っている*1。化学産業といえば、装置産業の代表格であり、プラント規模で勝負が決するかのように思われている。確かに汎用品(エチレンなど)についてはそのとおりなのだが、高機能化成品については、高度な技術開発力や生産力が必要である。そして日本の化学企業は、この領域に力を入れたため、90年代以降、大きく発展することになった。


このように、実質的な利益を稼ぎ出す業態を変えることで、復活しつつある「オールド・エコノミー」企業は、繊維産業だけではない。窯業(セメント・ガラス産業)でも同様のことが見られる。旭硝子日本電気硝子などガラス各社は、液晶ガラス基板やPDPディスプレイに注力して利益を出すようになってきているし、住友大阪セメントなど、セメント会社のなかにも、PDP事業で利益を稼ぐところが出てきている。つまり、オールド・エコノミー産業のIT化、である。


こうしてみると、IT革命の「革命」たる所以は、繊維、ガラス、セメントといったITとは無縁と思われていたオールド・エコノミー企業もまた、IT景気の影響によって業績が左右されるようになる、というところにあると言えよう。たとえばセメント業はかつて、建設投資や公共事業の増減によって業績が左右されていたことと比較すると、これがどれほどの変化であるかがよくわかる。要するにIT革命とは、狭義のIT業である情報通信産業の発展というよりも、むしろ、産業全体が全般的にITとの結びつきを強めるようになり(たとえば自動車も、電子化が進んでおり、この傾向が見られる)、またそれゆえに他業種企業の業績も、IT業界の在庫変動や業績変動の影響に左右されやすくなる、という点にあるのではないか。

*1:この数値は、『みずほ産業調査』2003年No.5、pp.36-37から得た。なお、電気機械器具は135.5とのことである。