読了

アメリカ病 (新潮新書)

アメリカ病 (新潮新書)

まあ特にどうということのない本であるが、個別には興味深い指摘がいくつかある。

その一つは、アメリカの禁煙運動に関するもので、これがPC(Political Correct)の支持を受けて、盛り上がりを見せたということと、その際、政府が禁煙運動への補助金を増額したので、「禁煙運動をやっていれば補助金を得られる」という了解を健康・医学関係団体、非営利団体、女性団体などに与えてしまった、ということ。
つまり禁煙運動は、内発的に動機づけられた運動ではなく、金銭という外発的動機によって突き動かされた運動でもあるということだ。そもそも、よく考えてみると、もしかの地の禁煙運動が健康に気を遣うがゆえのものならば、あんな不摂生な食生活をしているはずがない。というわけで、この指摘は納得がいく。
アメリカの禁煙運動もPCも、各種整形手術(バスト・ペニス・顔など)も、何か、ある種の大衆ヒステリー、あるいは「世俗宗教」のような気がしてならない、というのは言い過ぎだろうか。

もう一つ、興味深い指摘は、アメリカにおける銃の蔓延ぶりで、銃によって命を奪われる米国人は毎年約3万人もいて、正しくも「国内で内戦が起こっているようなもの」(p.157)と指摘していること。M・Weberに言わせると、暴力手段の独占的管理が近代国民国家の存在理由の一つなので、この点からすると、アメリカという国にはいまだ近代が訪れていないようにも思える。

あとは、「アメリカン・ドリーム」が、極端な貧富の格差を問題視・焦点化しないことに重要な役割を果たしていることも理解できる(第6章)ことなどが、この本の貢献か。