メモ(過剰流動性)

野村證券金融経済研究所「中期経済予測2008-2012:過剰流動性から読む世界経済のリバランス」
http://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/nsc/20071210/20071210_a.pdf



要約してみると:
1:現在の世界の過剰流動性の供給源は「中国」と「中東諸国」
2:通常、大幅な貯蓄過剰=経常黒字国では、通貨高と金利低下になって過剰貯蓄が減少
3:しかし中東諸国では、経常黒字(オイルマネー)が国内需要に結びつかず海外、特にイギリスに流入し、これがシティからアメリカへ流れることで、最終的には米国債の購入へ
4:他方の中国は、人為的に為替レートが低く抑えられているので、通貨高にならず、過剰貯蓄が減少せず、巨額の外貨準備高をもたらしており、これも米国債に流れている
5:こうした産油国と中国を源とする過剰流動性が、03年以降、米国の長期金利を低下させ、これが、米国内において、金利に敏感な住宅投資を活発化させ、米国では住宅バブルが発生
6:とはいえ、産油国と中国を源とする過剰流動性によってもたらされた米国の金利低下は、米国からの「ドルキャリー」取引を活発化させてしまった。かくして米国からの流出した資金は、ユーロ圏、英国、豪州といった高金利国に流入し、英国、スペイン、さらに韓国など米国以外の各国でも住宅バブルを促した
7:結局、中国の過剰流動性がいつまで続くのか、人民元レートの切り上げがどのように進むかによって、世界経済は大きく変動する
8:では、中国の過剰流動性=貯蓄過剰はいつまで続くのか?中国経済の分析が必要になってくる
9:中国は現在、異常に高い貯蓄率となっているが、一人っ子政策の効果として少子高齢化が今後進むので、貯蓄率は中期的には低下する。こうしたなかで、中国の設備投資が今後も年率8%のペースで伸び続ければ、2015年前後には中国の経常収支は赤字化する可能性が出てくる
10:いずれにせよ中国の経常収支は、今後減少していく可能性が高く、これは米国への資金流入の減少を意味する。また、人民元が大幅に切り上げられた場合も、経常収支の黒字は大きく減少し、やはり世界への流動性供給は細る
11:世界への流動性供給が細った場合、世界経済はどうなるのか?
12:第一に、世界的に金利が上昇する。第二に、過剰流動性が収縮する過程で為替レートの調整が起こる。人民元は1ドル=4.5ドル程度まで上昇する可能性がある。また、対米ドルで過大評価となっているユーロ、ポンド、豪ドル、NZドルなどが下落することが予想される
13:さらに、2015年頃には、貯蓄不足による世界的な高金利リスクの再燃が予想される
14:したがって米国は、財政赤字を縮小させ、中国からの資金流入を必要としない状態にならねばならない。と同時に、米国の財政赤字縮小=世界的な需要減少になるから、この需要減少分を世界のどこかが肩代わりする必要がある。そのためには、中国経済内需主導型になるしかない
15:結論的には、米国の財政赤字削減の可否が、中長期的な世界経済の安定を規定していく。また、過剰流動性の源泉である中国は、経済動向次第では世界経済の激震の起点にもなりかねない



文中では直接触れられてはいないが、政府系ファンド(SWF)がなぜ中国と中東諸国に多いのか*1がよくわかるレポートでもある。現在の世界の過剰流動性の供給源は「中国」と「中東諸国」、いずれも市場メカニズムがうまく作用しないので貯蓄過剰になっていて、この資金が政府系ファンドとして世界のマネーマーケットを駆け巡っているというわけだ。
政府系ファンド論はどうも、「是か非か」とか「日本も政府系ファンドを立ち上げるべきか否か」といった議論が多く、これをグローバルなマネーフローの歪みと結びつけた議論が少ない、という問題点がある。そうしたなかで、グローバルなマネーフローを論じたこのレポートは、政府系ファンドについて考える上でも、益するところがあると思う。


 

*1:アブタビ投資庁サウジアラビア通貨庁、クウェート通貨庁、中国投資、など。