「良い職場」とは

2010年度卒業・修了学生の就職活動がそろそろ始まる。親であれ、学生本人であれ「良い会社に就職して欲しい・就職したい」と思わない人はいないだろう。しかし「良い会社」とは人によって違う。これほど難しい概念も珍しい。


将来独立したいと思っていて、手っ取り早くそのためのスキルを身に付けたいという人が、年功序列色がきわめて濃くて社内調整力を身につけなければ出世もおぼつかないず、組織力で勝負するような伝統的大企業に勤めるのは間違っている。そのような人は、若手のうちから責任と仕事を任せるカルチャーの企業(リクルートとか)に勤めたほうが良い。しかし組織の中で協調して与えられた仕事をこつこつとこなすことによって能力を発揮するようなタイプの人が、リクルートのような会社に勤めるのも間違っている。そのような人こそ、伝統的な大企業に勤めるべきである。これは良し悪しの問題ではなく、向き不向きの問題に過ぎない。


ところが、日本の大学生の就職活動においては、この「『良い会社』は人によって違う」というあまりにも当たり前のことが、甚だ軽視されているように思う。そうしたなかで、仕事や会社生活をどのようなものにしたいかによって「良い会社」は違ってくるのであり、それに応じて会社を選べ、というメッセージと、そのための判断基準を12項目にまとめて提示した、渡邉正裕『若者はなぜ「会社選び」に失敗するのか』東洋経済新報社、2007年)は、画期的な本だと思う。著者も述べているように、この本は就職活動をする学生のみに向けられたものではない。職業人生を組み立てるに当たって判断すべきポイントを教えてくれる優れた本である。


さて「良い職場」が人によって違うというのは、一般の会社勤めの人だけに限られるテーゼではなく、どのような組織に属する人であれ共通だろう。わたしのように「雑音」に弱い人間にとって、派閥争いや権力闘争の激しい職場は向いていない。このような人間にとっては、精神的な安寧がもっとも大切なので、いくら職場の立地条件や給与等が優れていても、そうした職場は向いていない。だが、世の中には「敵がいると燃える」とか、まあそこまで行かなくても、「雑音があまり気にならない」というタフな(?)人もいる。このような人ならば、仮に派閥争いや権力闘争の激しい職場であっても、職場の立地条件や給与等が優れていれば、そうした職場に居る意味(または、移籍することのメリット)は大きいと思う。


上記は一例に過ぎない。「良い職場」の条件はいくつかある。すべての面で満点できる職場があれば問題はないのだが、そのような職場はなかなか存在しない。だから、自分にとって重要度の高い条件と重要度の低い条件、すなわち重視する条件とあまり重視しない条件をよく考えて、自分にとってふさわしいと思える職場を選ぶ必要がある。


 

若者はなぜ「会社選び」に失敗するのか

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