読了(シャー『「石油の呪縛」と人類』)

「石油の呪縛」と人類 (集英社新書)

「石油の呪縛」と人類 (集英社新書)

まあまあ役に立つ。「ダニエル・ヤーギンの大著『石油の歴史』を読む気にはなれないが、しかし石油の歴史を簡単に知りたい」、という人には向いている。とはいえ歴史書ではなく現在のことも扱っているし、今後のエネルギーの見通し(代替エネルギーなど)についても言及している。FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)を用いた深海からの石油開発の環境への悪影響という問題点について論じているのは、類書にないポイントで、高く評価できる。「石油の呪い」について一章を割いているのも良い。


ところで本書については、アマゾンで翻訳に難ありと酷評されている。確かにちょっと読みにくい箇所があるのは事実だが、日本人が日本語で書いたくせに日本語のめちゃくちゃな某国際開発論の教科書とか、decision-makingを「決定作成」と訳した某高名政治学者の翻訳書よりは、よっぽどマシなのではないか。アマゾンのレビューには、ちょっと悪意を感じないでもない。たとえば、「しみたま "shimitama" (東京)」のレビューでは、

P48「試堀井」私はこの漢字をどう読むのかわかりません。

とあるが、あのなぁ・・・。本書には「試井」だなんて書かれていない(本書の該当ページには、きちんと「試井」と記されている)。批判する奴が間違えて、どうするんだよ。そもそも「試掘井」の読み方を知らない奴がレビューなんか書くなっ。


とはいえ、訳者の翻訳に難点がないわけでもない。とくに固有名詞の間違いが目立つ。p.39「ダニエル・ヤージン」。「ダニエル・ヤーギン」を知らないで石油の本を翻訳するとは、ずいぶんいい度胸である。p.85「ワハビ派」。普通は「ワッハーブ派」と記すと思うぞ。p.143「先進、保守両政党」。progressiveなら「進歩、保守両政党」とでもすべきかと。p.163「相関関系」。「相関関係」だよね。p.179「ガファー油田」。だから世界最大の「ガワール油田」も知らないで石油の本を翻訳するなって。p.202-203「スタトオイル」。ノルウェーの国営石油会社statoilのことなら、普通は「スタトイル」と表記します(かつては「スタットオイル」という表記が一般的でした)。


ついでに言うと、原著の間違いも散見される。p.193「1993年までに自国の石油の大部分が枯渇してしまった中国は」。あの、枯渇はしてないんじゃないでしょうか。いまでも中国では、350万バレル/日ぐらいの産油量がありますが(1993年は、純輸入国に転落した年)。それとp.54で、第一次オイルショックの引き金を引いたのが、OPECであると誤読されかねないような表現があるが、引き金を引いたのは、OPECではなく、OAPECのほうである。