読了せず(クレア『世界資源戦争』)+読了(クレア『血と油』)

世界資源戦争

世界資源戦争

血と油―アメリカの石油獲得戦争

血と油―アメリカの石油獲得戦争

『世界資源戦争』は、ナイル川の水資源を扱った第6章と、ヨルダン川チグリス・ユーフラテス川インダス川の水資源を扱った第7章以外の石油を扱った章だけ読んだが、ちょっと旧い(原著2001年)うえに、情報量も物足りない。

最大の不満は、著者の主張は要するに「石油の産出地は、紛争の危険性があるところだ」というもので、その具体的な場所としてペルシャ湾カスピ海南シナ海を取り上げそこでの政治的不安定や軍事動向などを紹介しているだけであって、論述に深みがない、ということにある。石油そのものについても多少は論じられていはいるものの、本書はあくまでも、石油産出地(または産出が期待される地)での紛争の火種や、政治・軍事動向を論じたものである。


このように『世界資源戦争』はあまり評価できない本だが、『血と油』は、割と読ませる本である。まず情報量が多く、膨大な注釈と文献が付されている。

本書が「読ませる」のは、アメリカの中東およびカスピ海への関与の深化を、世界(アメリカを含む)のこの地域への輸入石油依存の深まりという観点から、一貫して描き出している点にある。こう書くと、「アメリカは、自国の石油利権を守るために、中東に派兵している」とか「対イラク戦争(2003年)は、イラクの石油利権が目的だった」といった主張をしている書物であるかのように思えるかもしれないが、そうではない(そもそも中東各国は、外国石油会社の自国への投資を憲法で禁じていたり、極端に制限しているのだから、西側石油企業は、中東には石油利権を持っていない)。そうではなくて、増大する世界の石油需要を満たすためには、中東の石油増産が必要なのだが、そのためにはこれら諸国の政治的安定が図られねばならず、それゆえにアメリカのこれら諸国への軍事的関与(武器援助、軍事訓練、基地建設など)は、第二次大戦後以降、深まり続けてきた、というわけだ*1

そして世界的に石油需要が増せば増すほど、中東のみならずカスピ海周辺諸国や西アフリカといった産油国への依存が深まるが、こうした国々への石油供給依存が深まれば深まるほど、産油国は政治的に不安定化し(「資源の呪い」。ただし資源の呪いという言葉は、使ってない)、軍事的にも不安定化し、こうした国々に関与するアメリカは道義的にもジレンマに陥る、というわけで、こうしたジレンマから脱するための方向性が述べられている。

本書の圧巻は、アメリカの中東関与の深化(トルーマン・ドクトリン→アイゼンハワー・ドクトリン、ニクソン・ドクトリン→カーター・ドクトリン…)を、世界(アメリカを含む)の中東石油への依存の深まりという点から論じている点にある。こうした見方が、アメリカ外交史・国際関係史の見方として正しいのかどうかは、やや疑問である。おそらく外交史家は、著者のような「綺麗な」(一貫した)説明を拒絶するのではないかと思うし、実際、「そんなに綺麗に石油だけで説明できるかな」という気はする。ただ、著者の論述は首尾一貫していて、これが「読ませる」のである(繰り返すが、著者の見方が正しいかどうかは、別問題)。ブッシュ政権の2001年の「国家エネルギー政策」についても、詳しい検討が加えられているのも良い。

*1:こうした観点からすると、2003年の対イラク戦争は、アメリカによるイラクの石油利権獲得が目的なのではなく、増大する世界の石油需要を満たすために、イラクの石油増産を可能にするためだった(フセイン政権が存続する限り、同国の原油供給は伸ばしようがないから)、ということになる。