読了/ボリス『コーヒー、カカオ、コメ、綿花、コショウの暗黒物語』

コーヒー、カカオ、米、綿花、コショウの暗黒物語―生産者を死に追いやるグローバル経済

コーヒー、カカオ、米、綿花、コショウの暗黒物語―生産者を死に追いやるグローバル経済

一次産品のうちコーヒー、カカオ、コメ、綿花、コショウに焦点をあて、そのグローバルな流通を辿ることで、国際政治経済の変遷を明らかにした本・・・のはずなのだが、そもそもカカオやコショウの生産や輸出がGDPや貿易額に一定以上の比率を占める国は少ない。また、コメはグローバルな流通商品ではない(ヨーロッパやアメリカでの流通量は微々たる程度)。だから、カカオ、コショウ、コメについて論じた章は、グローバルというよりもリージョナルな議論にとどまっている。

唯一グローバルな議論として成功しているのは、コーヒーについての章である。これはなぜかというと、コーヒーは、コショウ、カカオ、コメと違って、アジア、アフリカ、中南米という、途上国が集中する三大地域いずれにおいても大量に生産されているからだろう。また綿花も、アジア、アフリカ、中南米の各地域で生産されており、グローバルな議論が成立するはずなのだが、本書では中国などアジアの諸国への注目が弱く、リージョナルな議論にとどまってしまっている。


とはいえ、途上国の一次産品生産の現状を知るにはよい本。著者がフランス人だけあって、とくにアフリカについての記述が多い。ドキュメンタリータッチの記述と裏腹な関係にあることだが、情報密度はそれほど濃くない。もっとも、こうした入門的な書に、情報量を求めるのは酷だろう。訳文は比較的読みやすいが、いわゆるwashed arabica(ただし原語はフランス語)は、「洗浄済みアラビカ」ではなく、「ウォッシュド・アラビカ」あるいは「水洗アラビカ」と訳すべきでは???