読了/クリステンセン『イノベーションへの解』

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)

『明日は誰のものか』に活用されている理論的なツールのうち、『イノベーションのジレンマ』では見られなかったものの大半が、この書に収められている。またこの書は、『イノベーションのジレンマ』の内容を知らないと、読んでもあまり意味はない。

だからといってこの書のほうが『イノベーションのジレンマ』よりも面白いかというと、そうではない。やはり『イノベーションのジレンマ』のほうが、圧倒的におもしろい。個人的には、おもしろさは『イノベーションのジレンマ』>『明日は誰のものか』>『イノベーションの解』の順番だとと思う。『ジレンマ』には、眼から鱗が落ちるおもしろさがある。『明日』には、明確な未来予測がある。これらと比べると『解』は、企業のマネージャーや経営者に対して破壊的イノベーションを生み出すための実践論を教授するという色彩が濃く、やや面白みに欠ける部分がある。


とはいえ、本書にも、興味深い指摘が数多くある。特に感銘を受けたのは以下の指摘である。

①顧客を属性ベースでカテゴライズするマーケティングに頼っていては、破壊的イノベーションを生み出せないので、顧客が何を解決しようとしているのかに注目する「状況ベースの理論」が必要だということ。

②既存の卸売・小売りチャネルでは破壊的イノベーションの製品を売ってもらうことが難しいのであり、破壊的イノベーションの普及には、同時に、新しいチャネルが発展していく必要があるということ。

③モジュール化が進めば進むほど、製品全体を統合する企業よりも、(それ以上)モジュール化できない複雑なサブシステムを、より大きな製品のためのモジュールとして販売する企業のほうが利益を得られること*1。つまり「バリューチェーンのなかの性能がまだ十分ではない地点に位置する企業が、利益を握る」(p.195)こと。と同時に、モジュール化が進むほど、高い収益を生むブランドは、チャネルへも向かうこと(これをうまく活用したのがデル)。

④資金提供者の期待が、破壊的イノベーションのプロセスと成功を左右してしまうこと。「成長を急かすが利益を急かさない」資金の裏付けによる破壊的アイデアは失敗しやすく、逆に「利益を急かすが成長を急かさない」資金の裏付けによる破壊的アイデアが成功しやすいこと。


さらに、モジュール化と統合化は実は行きつ戻りつの関係にあるのだとかいう小ネタも、しっかり収められている。


繰り返しになるが、本書は、『イノベーションのジレンマ』や『明日は誰のものか』と比べて、主に企業経営の現場にいる人向けの記述となっている。だから、経営学を専門としない隣接分野の人間にとっては、本書よりも、『イノベーションのジレンマ』や『明日は誰のものか』を優先的に読むべきだろう。

*1:クリステンセンは指摘していないが、京都の優良企業――たとえば、ローム日本電産村田製作所など――の戦略はまさにこれだろう。