第6次M&Aブームの到来か

歴史上、世界(主にアメリカを中心とする)には5回のM&Aブーム(またはトラスト運動、企業合同運動)があったと言われている。すなわち、(1)19世紀末から20世紀初頭の第1次M&Aブーム、(2)1920年代後半の第2次M&Aブーム、(3)1960年代後半の第3次M&Aブーム、(4)1980年代後半の第4次M&Aブーム、そして(5)20世紀末から21世紀初頭の第5次M&Aブームである。まず(1)〜(3)の特徴をまとめておくと、次のようになる。

(1):水平的M&A。一国規模大企業の成立。背景は、電信電話と鉄道の普及による市場規模の拡大。
(2):垂直的M&A。原料生産から製造、販売までを一貫して手がける垂直統合企業の成立。背景は、(1)をうけて1914年に成立したクレイトン法が、水平的M&Aを禁止したこと。
(3):多角化M&A。産業上の連関があまりないコングロマリット型企業の成立。背景は、1950年のクレイトン法第7条改正としての、セラー=キーフォーヴァー法が、垂直的M&Aを禁止していたこと。なお、歴史上の5回のM&Aブームのなかで、失敗したケースがもっとも多いのがこの第3次ブーム時のM&Aである。


ただしこの後の(4)と(5)については、(1)〜(3)のような固有の明確な特徴を検出しにくい。しかしムリに考えてみると、以下のように捉えられるだろうか。


(4):国際的M&A。背景は、ドル安。ドル安=外国通貨高だから、外国企業にとって、米国企業の買収は容易になる。金融上の特徴は、LBOレバレッジド・バイ・アウト)の活用。
(5):グローバルM&A。つまり米国以外にも広く波及。背景は、メガコンペティション、自動車の世界最適地調達生産(鉄鋼、ガラス産業などに波及)、規制緩和(通信産業に波及)、規模の追求(自動車、医薬品産業)など。金融上の特徴は、株式交換以外にないだろう。逆に言えば、ここに、ライバル買収のために、また被買収を避けるために、株価を吊り上げる動機が生まれるのである。これがエンロンワールドコムという悲劇を生んだことは記憶に新しい。


この第5次M&Aブームが終わったのかどうかは、知らない。自分は、ITバブル崩壊を経ていちおう終結したのではないかと認識しているけれども、しかし終結した割には件数の大きな減少が見られない可能性もある。この点は、Mergers & AcquisitionsといったM&Aの専門誌で統計を確認しておく必要がある(課題)。


さて、最近になって、またぞろM&A案件が増えてきたような感がある。言うまでもなく、日本板硝子-ピルキントン、AT&T-ベルサウス、ソフトバンク-ボーダーフォン日本、ミタルスチール-アルセロールなどである。これらは、第6次M&Aブームの到来を告げるものなのだろうか。あるいは、第5次M&Aブームの継続として捉えられるべきなのだろうか。また、金融上の特徴として、LBOが活用されようとしているケースもある。米国で盛んになった第4次M&Aブームの特徴が、ようやくグローバルに波及しているということか。


ちなみに、ライブドアM&A戦略は、米国企業の拡張史に照らし合わせてみれば、第3次M&Aブームの特徴、すなわち「産業上の連関があまりないコングロマリット型企業の成立」を体現していたことが、わかるだろう。しかも、「失敗したケースがほとんど」というオチまで一緒であり、ライブドアの失敗は、「コングロマリット型合併はほとんどうまくいかない」という、第3次M&Aブームの教訓を再確認させるものだったと言える。またソフトバンクは、米国の第4次M&Aブームの金融上の特徴、すなわちLBOを活用せんとしているようだ。


こうしてみると、日本企業が関係しているM&Aは、アメリカにおける過去のM&Aブーム時の手法や特徴を彷彿とさせるものが少なくない、ということがわかる。米国企業の拡張史やM&A史を勉強すれば、日本企業のM&Aが実は古典的であることがよくわかるし、その行方もよりよく展望できるように思われる。歴史は、しばしば、別の場所で同じことを繰り返すものなのだろうか。そうであるならば、日本板硝子-ピルキントン、ソフトバンク-ボーダーフォン日本、ミタルスチール-アルセロールなどのケースは、それぞれ、どのように進行していくのだろうか。


(追記:2006/3/11)
(その1)米投資ファンドが共同対抗案か・ボーダフォン日本法人買収で
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060311AT1D1101R11032006.html


(その2)
橋本輝彦「M&Aブームと企業システムの変化」『立命館経営学』41(6)
http://www.ritsbagakkai.jp/pdf/416_16.pdf


(その3)
「活況を呈する米国の企業買収(M&A)」
http://www.jcif.or.jp/docs/20050120m.pdf


(追記:2006/3/20)
(その1)
「世界規模でM&A加速 エネルギーと通信顕著」
http://www.sankei.co.jp/news/060320/morning/20iti001.htm

(その2)
「独リンデが英BOCを140億ドルで買収、工業ガス業界で世界最大に」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060307-00000504-reu-bus_all


(追記:2006/3/25)
「仏アルカテルと米ルーセントが合併へ・交渉開始」
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20060324AT2M2401Q24032006.html


(追記:2006/04/07)
「台湾・友達光電、広輝電子を吸収合併」
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20060407AT1D0702G07042006.html