読了/梅田望夫『ウェブ進化論』

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)


話があちこちに飛んでいるのと、あと著者がこれまで既に発表してきたものがかなり再録されているのが難点だが、グーグルの凄さ、ロングテール総表現社会のツールとしてのブログ、オープンソース現象など、興味深いトピックが論じられている。


この本の最大の貢献は、グーグルの凄さを掘り下げて論じたことである。グーグルという会社の偉大さを、これほど明確に述べている本は、現時点ではまず見当たらない。しかもその説明は、「『人間の介在』なしに事を成していく」というグーグルの根本的な思想が踏まられており、アドセンスなどの具体例の適切性もあって、わかりやすい。グーグルは、単にヤフーのようなポータルサイト検索エンジンの会社ではなく、ネット上のコンテンツに付きまとっている玉石混交という問題を解決しうる非常に大きな意義をもった会社である、ということがわかった。


このグーグルが手がける「自動秩序形成システム」のインパクトをよく理解することによってこそ初めて、ロングテール現象、ブログの可能性、アマゾンが単に商品をネット上に並べただけの会社ではないこと、なども、適切に理解できるようになる。その意味で、本書の前半でグーグルを深く掘り下げ、これを踏まえた上で、最近のネットの新しい動きに関するトピックを論じていくという著者の目論見は、成功している。逆に言えば、もしグーグルの凄さについての具体的な説明がなければ、本書の価値は半減してしまっただろう。


このように評価しうる本ではあるけれども、トピックそのものの新奇性は、あまりない。というのも、著者が言っているような、グーグルは10年に一度の会社だとか、ブログのインパクトだとか、これが電子スクラップ帳としての意味を持っているだとか、JTPAの話だとかは、よくよく考えるまでもなく全部いずれも2003年のうちに、自分が在シリコンバレーの知人から直接教えてもらっていたことばかりだからである。この事実は、この在シリコンバレーの知人の観察眼が的確であったことの証拠とも言えるし、著者の梅田氏がITコンサルタントである割には、分析が十分に掘り下げられていないことの証拠とも言える。いずれにせよ、ネットの世界に通じていない年長者にはこの本はウケるだろうし、ネットをある程度使いこなしてはいる人にとっても頭の整理にはなろうが、ネットの世界にどっぷり浸かっているcutting-edgeな若者には、2006年という時点でこうした話を聞かされても、新味はないだろう。


そこで著者に今後望みたいのは、本書で再三再四言及されている「自動秩序形成」という考え方をさらに掘り下げ、その上でウェブ世界の進化を展望して欲しい、ということである。「自動秩序形成」というコンセプトは、中央集権的ではないネット世界の情報秩序のあり方を展望する上で、また、「web2.0」な世界がわれわれにとってcomfortableなものとして形成されていく上で、重要なコンセプトだと思うからである。さらに直感的な見通しを述べておけば、こうした「自動秩序形成」という考え方を、レッシグのいう「アーキテクチャ」と関連付けて考察すると面白いことが言えるのではないかという気がするのだが、これは社会学者の課題だろう。