読了/ジャック・アダ『経済のグローバル化とは何か』

経済のグローバル化とは何か

経済のグローバル化とは何か


これはよくできたテキストである。


第一部は、ヨーロッパ資本主義世界経済の胎動から帝国主義時代までの世界経済史。第二部は、20世紀の国際貿易、国際投資、国際金融をすべて視野に収めた、主とした世界システム中心部の世界経済論。第三部は、20世紀の発展途上国の経済、とくに南北問題と低開発という問題を俎上に載せた世界システム周辺部の世界経済論。そして第四部は、1970年代以降の現代世界経済論で、福祉国家と戦後世界経済の調整要式(レギュラシオン)の再編のなかで立ち現れつつある、経済政策の国際的協調、地域同盟の形成、多国間機関の強化といった動向と、これらを要請している現代世界経済の不安定性などが論じられている。


学術的に特別に新規なことを論じているわけではないけれども、それでも、世界経済の見方に対する著者独自のパースペクティブに基づく知見が散りばめられていて、勉強になる点が多い。また広い空間(先進国と途上国)と長期の時間(世界経済史から現代世界経済論までの通史)の双方に渡って目配りがなされた上で、さまざまなトピックが論じられているのだが、単独の著者によるスケールの大きな世界経済論自体が近年稀になっていることを鑑みれば、このこと自体高く評価されてよいだろう。叙述にあたっての著者の理論的なスタンスも、新古典派貿易論の限界を認識し、世界システム論とレギュラシオン理論にむしろ重点を置いているという点で一貫している。
個人的には、中世イタリアに端を発する遠隔地商業の発展によって力をつけた商人階級が、国民国家と結びつくことによって、規制でがんじがらめになった国内商業の自由化を進め、その結果として競争的な「市場」ができあがったのだという議論が、とても勉強になった。これは、まず最初に局地的な市場が形成され、次にそれらが拡大・接触することで国民的な市場が形成され、さらにこの国民的な市場が対外的な関係を強めていってグローバルな市場が形成されたという通説に対する強烈な批判となっている。このあたりは、世界システム論に強い著者の面目躍如というところだろう。



本書は世界経済史、開発経済学、世界経済論などのゼミナールでの輪読に向いている。また、これら科目の講義担当者が取り上げるトピックを整理する上でも役に立つ本だろう。派手さはないが、地味ながらもコンスタントに売れていく可能性のある本だと思う。