玄田・川上「就業二極化と性行動」『日本労働研究雑誌』556号

SNSサイト、Greeの「キーワード」のなかに、「少子化の原因は30代男女の残業にあると思う」というものがある。自分はこれを正しいと思っているが、この直感と整合的と思われる論文が出た。玄田有史・川上淳之「就業二極化と性行動」『日本労働研究雑誌』556号、pp.80-91、である。以下は同論考の冒頭に示されている要約。

日本版General Social Survey(JGSS)を用いて、20〜39歳を対象に就業の有無と労働時間の長短が成人の性行動頻度に与える影響を実証分析した。国際比較により性頻度の相対的な少なさが日本の低出生率につながっている可能性を概観した上で、JGSS個票から性頻度の区間回帰分析を行った。その結果、無業者は就業者に比べて性頻度が少なく、特に単身者にとって無業状態は性行動を有意に減少させていた。加えて就業者に限定した上で労働時間の影響を見ると、長時間労働は既婚給与所得者の性頻度を抑制する傾向がみられた。無業状態と長時間労働が増加するという若年成人の就業二極化はともに性行動を消極化し、少子化に拍車をかけてきた可能性がある。

まあ別に驚くような結論ではなくて、みんなが思っていたことを実証的に明らかにしたというものだけど、興味深い。願わくば、第一に、東アジア全域で進行中の少子化*1と、高原基彰『不安型ナショナリズムの時代』(洋泉社)あたりに提示されている日中韓の若年雇用状況をふまえて、この分析の国際比較をやって欲しい。そして第二に、ある意味で無業者の「大学院生」の「性頻度」を誰かに調査して欲しい。

*1:合計特殊出生率は、シンガポールで1.25、台湾で1.24、香港で0.925(以上いずれも2003年)、韓国でも1.17(2002年)である。ちなみに日本の2003年の値は1.29だった。