読了(中津『アフリカ世界を読む』)

アフリカ世界を読む (創成社新書)

アフリカ世界を読む (創成社新書)

著者は日本でも指折りの「オイル・ウォッチャー」である。専門はもともとは南東欧経済だが、ロシアにも造詣が深いし、アフリカに関する書物もいくつかある。主にエネルギー政治経済の観点から国際問題を分析するというスタイルで、活発な著作活動を繰り広げており、とくに最近は勢いがついてきたのか、年に数冊というすごいペースで著作を上梓しているが、これだけ多作だとやはり雑になってしまうのか、本書には基本的なミスがいくつかある。

ひとつは、第4章の130ページで、南アフリカの一人当たりGDPが5000ドルを突破したと記述しつつ、第5章の173ページでは、南アフリカの一人当たりGDPが2780ドルに達していると記述していること。どっちやねん。世銀のデータを紹介した外務省のHPでは、2006年時点で5390ドルだというから、前者が正しい。

もうひとつは、第4章の133ページで、アフリカで金の生産量第三位がタンザニアだと記述しつつ、第5章の181ページでは、アフリカで金の生産量第三位がマリだと記述していること。ただしこれについてはどちらが正しいのか確認ができなかった。

本書の白眉は、やはり著者の専門を生かした、アフリカの石油生産を論じた第2章である。他方で、「アフリカと国際商品」と題した第5章は、どうも水増しした感が拭えず、本全体からは「浮いて」いるような印象を受けた。

それにしても、これだけアフリカを楽観的に捉えられる人は、いまどき珍しい。「本書では悲観的な見方は一切排除している。前途洋々な明るいアフリカ像を読者の皆様に提示したつもりである」(p.vii)という言明にウソはない。自分はこうした「明るいアフリカ像」に、必ずしも説得されなかったが、著者の見方が「日本で既に出版されているアフリカ関係の書物とは全く異なった視点で論述」(p.vii)されていることは、間違いない。著者の見立てが正しいか否かの判断は、著者が述べているとおり、「歴史的時間」(p.vii)によって下されるであろう。