読了

瀧澤弘和「シリコンバレー・モデルと生産物システムのモジュール化」『経済研究年報』(東洋大学グローバル・エコノミー研究センター)第27号、2002年。

興味深いのは「情報通信産業の発展自体が、モジュール化によってもたらされたと同時に、情報通信産業の発展が、他の産業においてもモジュール化を促進する原動力となっていると考えられる」という指摘。

というのは、「企業間のコーディネーション・コストが低くなればなるほど、企業内のコーディネーション・コストが高くなればなるほど、また開発に伴う全般的な不確実性が高ければ高いほど、デザインの分割の仕方は細かくなり、各企業のサイズは小さくなる」からである。情報通信産業の発展は、企業間のコーディネーション・コストを小さくする。これが、モジュール化を促進する原動力となるというわけだ。

シリコンバレーの現象論についての指摘に目新しさはないが、それをアカデミックなツールで理論化しようとした点に新味がある論文。





柿原正郎「音楽制作におけるデジタル化のインパクト――『モジュール化』の視座から」『商学論究』51(2)、2003年。

興味深いのは次の2点。
・デジタル化によって、音楽製作の各工程(創作、レコーディング、編集など)が、シーケンシャルな進行から、フレキシブルな作業調整の連鎖(行きつ戻りつする)に変わる。つまりデジタル化によって、工程間の区分が曖昧化するというわけだ。

・各工程の区分が曖昧になる結果、制作プロセスのなかで、綿密な「擦り合わせ」が必要になる。と同時に、制作環境はデジタル化によってパーソナル化していく(個人が制作に必要な機材を所有できるようになった)ので、制作体制は属人的なネットワークで繋がる少人数の緊密なチームになる。