読了/手嶋龍一『ウルトラ・ダラー』

ウルトラ・ダラー

ウルトラ・ダラー

これは小説ではなく、「ドキュメント・ノベル」という(これ自体、ほとんど形容矛盾だが)ジャンルの作品である。だから、人物描写が下手だとか、構成に難があるという批判には、あまり意味がないと思う。この作品を通じて著者が提示したかったことは、偽札作りなどの北朝鮮の各種不法経済活動などよりもむしろ、(1)田中均はやっぱり国賊だ、(2)北朝鮮のミサイル開発の背後には、この北朝鮮のミサイルを梃子にしながら、東アジアにおける米国のパワーを牽制し、この地域のパワーバランスそのものを塗り替えようとする中国の戦略的意図がある、ということだと思う。このあたりのことを、「レポート」等の形を取らずに、あえて「小説」という形をとって読者に提示した理由は、ひとえに、「ノンフィクション」の形では書けない秘密の「情報」が、あまりにも多すぎるからなのだろう。

それにしても、著者の情報力は凄まじい。本書のなかで随所に埋め込まれた「情報」は、著者が「単なるジャーナリスト」などではないことを示している。