読了/伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」(第135回芥川賞)

単行本ではなく『文藝春秋』06年9月号で。しかし最近の小説ってどうしてこんなに面白くないのだろうか。


息もつかせぬような緊張感、およそ想像できないようなありえない波乱に満ちたストーリー、人間の愚かさと崇高さ、何気ない生活に潜む罠の恐ろしさ・・・こうしたものを味わいたければ、読むべきは、いまや小説よりもむしろ個人が書き連ねている「ブログ」(「blog」ではない)なのではないか、と思うときがある。個人が書き連ねているブログのなかには、たどり着いたが最後、すべて読みきるまでパソコンの前を離れられなくなるようなストーリーが、確かにあって、それは増えている。立花隆は以前、『僕はこんな本を読んできた』のなかで、学生時代は小説ばかりよんでいたが、文藝春秋社に入社し、ノンフィクションものを多く読むようになったら、現実世界のほうが小説よりもはるかに奇怪なことや斬新なことが数多く起こっていてしかも小説よりも興味をそそられ、文学者の想像力が生きた現実と比べていかに貧しいかを思い知らされて、小説を読まなくなった、というようなことを書いていたけれども、いまやブログに、小説より面白いものがたくさんある。小説というジャンルそのものは、本当に社会的に受け入れられなくなってきているのではないか(このことは以前にも書いたので*1、これ以上は繰り返さない)。


参考:「近代文学が終わり、思想家がいなくなった」
http://d.hatena.ne.jp/PreBuddha/20051112